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【ビジネス黙示録】「東京電力救済機構」の誕生

大鹿靖明

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 福島第一原発事故による莫大な賠償債務を背負う東京電力の負担をやわらげようと、民主党政権は5月13日、東電救済「機構」の設立を骨子とする賠償スキームを決めた。その内容は、あまりにも東電に甘く、賠償スキームというよりもむしろ東電救済スキームとでも呼べそうな代物だ。

 そもそも、この東電救済機構の設立案を主唱してきたのは、東電のメーンバンクである三井住友銀行だった。

 三井住友は3月下旬、当時頭取だった奥正之現三井住友フィナンシャルグループ会長(全国銀行協会会長)が経産省事務方トップの松永和夫経産事務次官と面談し、その後、6000億円もの東電への緊急融資を決めている。このときのことを松永氏に尋ねると「コメントは差し控えさせていただきます」と言うのみだが、面談の存在自体は否定しなかった。奥氏自身も「会ったという事実はある」と会談を認めるが、その中身は「どうしてそんなことまで言わないといけないの?」と、開示することを拒絶した。

 つまり2人は面談の存在自体は認めているのだ。

 産業界に大きな影響力のある経産省だが、事務方トップの次官が、金融界の大物と極秘会談を取り持つのはきわめて珍しいことである。この当時東電は財務担当の武井優副社長が資金繰りに奔走していた。そのタイミングでの面談とあれば、当然、経産省がメーンバンクに金融支援を要請したと見るのが自然だろう。

 実際、この後に東電に1000億円の融資を実行したある銀行の常務は、金融界の噂として、「三井住友が経産省に行って融資について口頭で約束してもらった。残高が一番でかいのは三井住友。こんなの(2番目に融資残高が多い)みずほコーポレートでは仕切れない」と打ち明けた。この「口頭の約束」について、あるメガバンクの広報担当者は「次官クラスとがちっと。リーガルも詰めてそれなりに膝詰めで、それなりの話をした」と話し、一種の「暗黙の政府保証」があったことを示唆している。おそらくは松永氏が、危機的な東電の状況を見かねて三井住友に融資を依頼し、将来とりっぱぐれないように政府が支えるニュアンスを伝えたのだろう。

 かくして三井住友など各行は3月25日ごろに融資を決定している。三井住友の場合は3月29日に短期金融市場で資金調達し、31日までに融資を実行した。各行の融資額は三井住友6000億円、みずほコーポレート銀行5000億円、三菱東京UFJ銀行3000億円、みずほ信託・三菱信託・中央三井・住友信託各行1000億円などとなっている。

 不思議なのは、

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