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「悪の新世界」とソニーの未来

木代泰之

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 ソニーがハッカー集団からインターネット配信サービスへの執拗な攻撃を受けている。被害はゲーム、音楽、映画と広がり、1億件以上の顧客情報が流出し、1か月近くサービスを停止する深刻な事態になった。ところが、会見したハワード・ストリンガー会長は「事件はしゃっくりみたいなもの」「100%安全などありえない」と軽くあしらい、「これからは悪の新世界が始まる。悪人たちは金融や航空、送電などあらゆる社会システムに犯罪を仕掛けようとしている」と、話題をネット時代の恐怖へと巧みにすり替えた。

 やはりゲーム会社の人なのだろうか。この世は単純に善と悪からなり、ソニーは悪人たちの不運な被害者だと会長は強調する。だが、それは少し違うようだ。ハッカーが集団でソニーを攻めた背景には、一人の若い天才ハッカーの技術を企業ビジネス防衛のために法廷で押しつぶしたことへの反発がある。それは最近のソニーについて誰もが感じている疑問――世界的なヒット商品がなぜ出ないのか、創業以来のベンチャー精神はどこに行ったのか――にもつながる問題をはらんでいる。

 事件の発端は、米国の有名ハッカーであるジョージ・ホッツ氏(21歳)が今年1月、プレイステーション3(PS3)に設けられた制限を破り、自作ゲームをプレイできるようにしたとブログで公表したことだ。1年前に「PS3を破る」と宣言し、ソニーとのネット上の一進一退の攻防の末に実現してみせた。

 負けたとみるや、

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