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バーゼル3が世界の銀行に与える影響―優位に立つアジア太平洋地域

根本直子 早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授/アジア開発銀行研究所、 エコノミスト

 世界の銀行がバーゼル3への対応に苦労する中で、アジア太平洋地域の銀行は、相対的に優位な地位にある。ただし中国、インドなどの高成長の銀行システムや、追加的な負荷の課される日本のメガバンクなどはより困難な課題を抱える。また、市場調達への依存が高い銀行は、流動性規制への対応に苦慮するだろう。

銀行の行動を変えるバーゼル規制

 バーゼル銀行監督委員会(バーゼル委員会)は、国際的に業務を展開する銀行に適用する規制を決定している。新たな所要自己資本比率は2013年から段階的に導入され、2019年に全面適用される予定である。大幅に見直すのは3回目であることから、バーゼル3と呼ばれるこの規制の目的は、銀行の健全性の強化を通じて経済を安定化させることにある。

 バーゼル3では自己資本の質を以前よりも重視している。銀行は2015年までに「普通株式等Tier 1比率」の最低基準4.5%を満たすことが義務付けられる。加えて2016年以降は、財政困難に陥った場合の保全として、強制的な2.5%の資本保全バッファーを維持する必要があり、最終的に普通株式等の最低所要水準は7%となる。さらに、非連結子会社への出資など、普通株式等から数多くの項目を控除する必要がある。

 銀行業界が新体制に円滑に移行し、自己資本・流動性を強化できれば、経済の安定性が高まることになる。一方で、新規制は銀行のビジネスモデルに大きな変化を引き起こし、急激な貸し出しの縮小など、意図しない結果をもたらすおそれもある。 

欧米とアジア地域の抱える課題

 欧州の大手銀行の自己資本は、一般的には、信用力にとって弱みとなっている。2008年以降の金融危機で資本を毀損し、その後増資などで回復させたものの、コア資本の比率はグローバルな比較では低い。

 さらに、ギリシャ等の高債務国の国債価格の下落や、経済成長率の低下による貸倒れコストの上昇などにより、自己資本比率は下方圧力にさらされている。

 欧州金融監督庁(EBA)は、2012年半ばまでに、銀行に対して普通株等自己資本比率の9%の達成を奨励しており、そのためには、1147億ユーロの資本増強が必要と発表した。欧州の銀行の資産内容には不透明性が残る上、投資銀行業務などの収益は市場の混乱や規制変更で大きく低下するとみられ、市場での資本調達は難しい。

 一方、銀行の側は、政府の資本注入を受けることは回避したいと考えており、資産の削減などで対応することが予想される。また、欧州の銀行はクロスボーダーの市場性資金調達への依存が高いため、新たな流動性規制の対応には困難を伴う。

 欧州上位25行の流動性カバレッジ比率(LCR)は平均60%程度、安定調達比率(NSFR)は80%程度とS&Pは試算しているが、これは規制上必要な100%をかなり下回っている。この点からも、投融資など長期の資産の削減が進むとみられる。

 米国の大手銀行については、ドットフランク法との関連でバーゼル3の適用は遅れる見通しにある。最低自己資本比率は大半の銀行がすでに達成しているか、近い将来達成が可能である。ただ、バンクオブアメリカやシティグループなど大手銀行8行はシステム上重要な銀行(G-SIBs)に含まれるため、普通株式等Tier 1比率が1-2.5%上乗せされる。

 このために、2900億ドルから3900億ドルの資本増強が必要とS&Pは推計している。追加的な資本賦課は、2016年1月から2018年末までの間に実施されるため、剰余金の積み上げで対応できるとはいえ、欧州危機の動向次第では、資産の削減や事業の再編なども検討されるだろう。

 これに対して、アジア太平洋地域の銀行の多くは、バーゼル3のもとで引き上げられた所要自己資本比率を達成しやすい状況にある。

 第一に、

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