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CSRを巡る「四つの誤解」と「三つの効用」(下)

 「CSR」の三つの効用のうち、第一はES(従業員満足度)だ。すなわち、CSR活動をすると、社員が元気になることが全国の企業から続々と報告されている。先述の石井造園・石井社長もこう断言する。「CSRを始めたら、社員たちが元気になった。結束力も生まれ、良い雰囲気になってきた」。CSRでモチベーションがアップしたからだと見ている。

 この効用は、企業の規模を問わない。損保ジャパンの佐藤正敏会長(インタビュー当時)も「CSRを徹底することで、社員たちがコモンセンス(常識)を発揮できる。一人ひとりが誇りを持つようになる」と明言している。

 社員が常識と誇りを持つことは、社内のリスクマネジメント(危機管理)にも有効だ。法律に触れるか触れないかという微妙な判断を迫られた時に、毅然とした態度が取れるからだ。

 みつばち文庫などのCSR活動を続けている山田養蜂場(岡山県鏡野町)の山田英生社長は、「企業が悪いことをしないためには、良いことをし続けるのが一番」だと読売新聞のインタビューに答えている。

 極言すると、CSRの徹底により、「不況」と「不満」と「不祥事」に強い組織作りができると差し支えないだろう。

「いいね!」が企業の業績を上げる

 第二の効用は、CS(顧客満足度)だ。CSR活動をすると「顧客が喜ぶ=リピーターが増える」という図式だ。

 ノースウェスタン大学ケロッグ・スクールのフィリップ・コトラー教授は著書『社会的責任のマーケティング』で次のように述べた。

 「企業の社会的コーズへの取り組みは従業員、潜在顧客、既存顧客、株主、投資家さらには報道、議会や法廷においてさえ、好意的に捉えられる。これはブランドや最終利益にプラスの効果があることを示す証拠が数多くある」

 このような考え方を元に、海外ではさまざまなソーシャルマーケティングやCRM(コーズ・リレイティッド・マーケティング)が展開されてきた。日本ではそれが遅れ気味であったが、東日本大震災を機に、連帯感や共感を訴えかけるマーケティング手法が急速に増えてきた。

 ヤマトホールディングスによる、宅急便1個に付き10円の被災地寄付、イオンによる「幸せの黄色いレシートキャンペーン」など枚挙に暇が無い。フェイスブックやツイッターなどソーシャル・メディアが日本で急拡大したことも、これに拍車を掛けた。

 その意味で、2011年は「ソーシャル」元年だったかも知れない。

 ソーシャル・メディア上での「共感」は、幾何級数的に増幅していくのが特徴だ。例えば、ヤマトの10円寄付に対しては、ツイッターで「これはかっこいい」「素晴らしい」「クロネコひいきしよ」「すごいなぁ えらい」などの書き込み数百件が相次ぎ、話題を呼んだ。

 日本人は元々、共感で動く国民性が指摘されていたが、これをソーシャル・メディアが増幅した形だ。この動きは今後もさらに加速していくだろう。

社会が企業の「未来の顧客」に

 三つ目の効用はSS(社会満足度)だ。上記のような共感が積み重なると、その企業の製品やサービス、あるいは企業自体の企業価値やに「ブランド価値」が膨らんでいく。

 従来型のブランドは製品やサービスそのものに対してだったが、いま起きている変化は「企業のCSR」に対する共感だ。オルタナでは、これを「ソーシャル・ブランド」と呼んでいる。

 従来型のブランドが主に「顧客」だけが対象だったのに対して、「ソーシャル・ブランド」は、顧客だけではなく、その企業の従業員、株主、地域社会、自治体、NPOとステイクホルダーの幅がはるかに広いのが特徴だ。

 つまり、企業のCSRが進むと、その周りの社会の満足度が高まる。重要なのは、これらステイクホルダーすべてが、その企業の「未来の顧客」になる可能性が高いことだ。

 それは、ブランドという目に見えない形だけではない。例えば、

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