メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

社会保障論議6つの誤り(下)

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

社会保障会計は破綻する

 (4)年金保険料を払わない人には年金を支給しなくても良いのだから、年金会計が破綻することはない、という議論は、高齢者の基本的な生活保障は年金でしなければならないとする人から聞かれる意見である。

 確かに、年金保険料を払わない人には年金を支給しなくてもよい。しかし、そう主張する人は、年金保険料を払っていなかった高齢者はホームレスになって餓死してもよいと考えているのだろうか。

 自民党は憲法改正に熱心なようだが、天皇の地位を定めた第1条や戦争放棄を謳った第9条を改正したいわけで、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活をする権利を認めた第25条を改正しようという人はいない。

 年金保険料を払わなかった高齢者は、生活保護で面倒を見ることになる。息子が人気芸人で高額所得者であっても生活保護を支給していた。ただの人なら、なおさら、高齢の親が保険料を納めていなくても生活保護を支給することになるだろう。

 年金会計上は負担にならないかもしれないが、社会保障予算全体としては負担になる。しかも、国民年金よりも生活保護の方が、支給額が多い。年金会計は破綻しなくても、社会保障会計は破綻する。

消費税の逆進性を正してはならない

(5)消費税の逆進性は是正しなくてはならないというが、これも誤りである。

 まず、消費税の逆進性は大きくはない。所得の低い人はほとんどを消費に使うが、所得の高い人はより多くの所得を貯金する。だから、所得のうち消費に回す割合は、所得の高い人が低い。すると、所得の高い人の消費税負担は所得の割には低いことになる。だから、消費税は逆進的だというのだが、人々は将来消費するために今貯蓄するのである。所得の高い人も、いずれ贅沢な車や家具を買ったりする。長期的に見れば、それほど違いはない。

 さらに重要なことがある。所得のほとんどが年金である人は所得の低い人に入るのだろう。すると、消費税の逆進性を正すとは、年金を受けている人は消費税を負担しなくてよいことになる。これは世代間の不公平を拡大することになる。

 現在、年金保険料を払わない、あるいは払えない人は、所得の低い人が多いだろう。しかし、消費税は誰でも払うのだから、これを財源にして最低保障年金を造れば、公平である。所得の高い人はより多くの負担をして得られるものが少ないが、そこは我慢してもらうしかない。税による最低保障年金制度により、生活保護費を減らすことができる。

増税の前にやるべきことは社会保障支出の削減

 (6)増税の前に、議員定数の削減、公務員賃金の引き下げなど、政府自ら痛みを分かち合うなどやるべきことがある、という議論がある。賛成ではなるが、本当にやるべきことは

・・・ログインして読む
(残り:約1214文字/本文:約2341文字)