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アップル、グーグル、MS、特許戦争の先に見えるもの

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 サムスンのタブレット「ギャラクシータブ10.1」やスマートフォン「ギャラクシー・ネクサス」は特許侵害にあたるとして、アップルが販売差し止めを求めていた裁判は、6月末、米カリフォルニア州の裁判所で2件ともアップルが勝訴した。

 アップルがとくに重視したのはトレードドレスである。トレードドレスは日本では馴染みがないが、商品やサービスの全体的なデザイン、色や形のイメージ、印象が醸し出す独創性を保護する概念のことだ。

 iPhoneの全面液晶のタッチパネル画面、角に丸みを付けた四角いアイコンを並べたデザイン、包装箱の形・色・印象まで、すべてスティーブ・ジョブズによる独創の形であり、サムスンはそれを模倣しているとアップルは主張した。訴状にある写真(下)を見れば、確かにギャラクシー(左)がiPhone(右)のイメージをそっくり頂戴していることは一目瞭然だ。

 アップルは勝訴を受けて、サムスンに25億2500万ドル(1990億円)の損害賠償金を請求したが、アップルの隠れた狙いは、OS(基本ソフト)のアンドロイドを世界中のメーカーに無償で提供しているグーグルへの牽制パンチである。グーグルがアンドロイドをバージョンアップする際の協力企業がサムスンであり、日本メーカーなどより数か月以上も早く製品を発売できる立場にある。販売台数も多いので、アップルは対グーグルの代理戦争としてサムスンを訴えているのだ。

 特許は日本では新技術の登録程度に考える企業が多いが、本来は自身の持つ強みを武器にして相手の弱みを突き、事業の優位性を維持するという戦略的なものだ。今米国で起きているのは、そうした企業の浮沈がかかったし烈な「戦争」である。

 マイクロソフト(MS)も、サムスンをグーグルの代理として狙い打ちしている。MSは昨年、サムスンのスマホやタブレットに自社の特許が含まれているとして、サムスンに特許使用料を支払わせる契約を結んだ。同じ契約はアンドロイド系の台湾のHTCやエイサーなどとも結んでいる。アンドロイド端末が売れるほど、MSの収入が増える仕組みで、じりじりとグーグルを攻めている。

 グーグルがアンドロイドを無償提供しているのは何もボランティアではない。グーグルの本業はネット検索・広告業なので、アンドロイドを「誘い水」にして端末数を増やし、グーグルの機能や販売サイトを利用させて収益をあげようという作戦だ。

 こうして情報の世界制覇を進めるグーグル阻止の動きをMSとアップルは強め、グーグルは「MS・アップル連合軍は自由競争を妨げている」(創業者のセルゲイ・ブリンCEO)と名指しで批判。両サイドの対抗心は燃え上がっている。

 グーグルは歴史の浅いネット企業なので保有する特許数が少ないことで知られる。一般に特許侵害で訴えられると、逆に自社の特許を活用して相手を訴え、クロスライセンス契約に持ち込んで解決することが多いが、グーグルはこの手が使いにくい。

 そこでグーグルは自社の特許数を増やすことを重要な戦略にしている。昨年は通信機メーカー・ノーテルの特許6000件を購入しようと計画したが、アップル・MS・日欧加で作る企業連合に入札金額で大差をつけられ、敗退した。

 しかし、

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