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イジメではない、犯罪である

原田泰

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 大津市の中学2年生が飛び降り自殺した事件がイジメと報道されているが、何かおかしいのではないだろうか。自殺した生徒は、たびたび殴られてあざをつくっていた、お金を取られていた、万引きを強要されていた、家からお金を持ってくるように強いられていた、死んだ蜂を食べさせられた、窓から外へ向けて上半身を反り返らせる姿勢を取らされ自殺の練習をさせられていたという証言がある。

 事実とすれば、暴行、脅迫、強要、強盗、重過失致死罪にあたる。見過ごした教師の中にはケンカだと思ったと証言している者もいる。しかし、ケンカというのは双方に暴力を振るいたい意志がある場合の名称である。1対多で一方的になぐられていることをケンカとは言わない。これはイジメでもケンカでもなくて明確に犯罪である。

なぜ学校は無法地帯になるのか

 国家の一番重要な役割は、国民を他人の暴力から守ることである。部族社会では、部族同士の争いが絶えなかった。その状況から王が生まれて、王は暴力を独占するとともに、国民を暴力から守る義務を負った。これがホッブズの王権の正当性の説明である。ここから、暴力を独占した王が、国民を保護する義務を履行しない場合にどうしたら良いのかという思考が生まれ、民主主義思想の源流となった。

 幸いなことに、学校以外の世界では、他人が私を殴り、お金を無理やり奪えば、この他人は犯罪者である。警察は、犯人を探してくれるし、犯人が特定されれば、逮捕してくれ、私を守ってくれる。

 たまたまでなくあざをつくるほど殴られれば、学校以外では立派な犯罪である。なぜ犯罪として認知できないのだろうか。教育長も校長も担任も知っていたが、犯罪として処理することが嫌だったのだろう。中学生でも、ワルは怖い。いかにも責任逃れ以外は何もできそうもない教育長や校長たちに、

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