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総選挙で気になる原子力産業の行方

木代泰之

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 原子力政策が総選挙の争点になっている。結果次第では、エネルギー政策だけでなく、原発開発を手がける原子力産業界にも影響が出てくる。東芝、日立、三菱重工の3社は、米・仏企業と組んで世界最大級の原子力グループを形成し、日本製鋼所は世界の大半の原発の圧力容器を製造している。3社が政府と一体で進めてきた新興国への原発輸出はどうなるのか、中国の原発拡大にどう対応するか、廃炉や安全性向上に必要な人材は育成できるのか――などの論点を整理し、今後を展望してみたい。

 福島原発事故のあと、世界の原子力発電がどんな動きをしたかを見よう。営業運転を始めた原発はインド、韓国、パキスタン、中国の計4基。着工したのは中国、パキスタン、ロシアの計4基。計画入りしたのはベラルーシ、中国、フィンランド、ロシア、米国の計12基である。この米国(1基)を除くと、すべて新興国と途上国である。

 一方で閉鎖したのは福島第一原発の4基、脱原発を決めたドイツの8基、英国の1基で計13基。こちらはみな先進国で、世界全体では差し引き9基減った。簡単に言うと、米国を除く先進国は現状維持か縮小・廃止へ、新興国や途上国は逆に拡大という流れがはっきりしてきた。

 米国はオバマ大統領が、「原子力ルネッサンス」と称して、スリーマイル事故(1979年)以来凍結していた原発建設を再開したが、福島事故の影響やシェールガス革命によって、今はやや足踏みしている。

 欧州は原発に代わる風力、太陽光など再生可能エネルギーへの投資が活発だ。発電量の不安定さを相互の融通でカバーするため、各国を縦横に結ぶ高圧直流送電網(海底ケーブル)の建設に力を入れている。

 日本の原発メーカー3社は、先進国で新増設が期待できないので、新興国への展開を図っている。リトアニア、ベトナム、トルコ、フィンランドなどが建設を計画し、受注を目指して活動中だ。

 一つ目の論点は、総選挙の結果次第では、原子力産業にとって楽観できない事態になる可能性があることだ。

 新興国や途上国にとって、1基数千億円もする原発建設は国家の大事業であり、プラント建設だけでなく、ファイナンスや運転支援までパッケージで求めてくるのが普通。それに応えるには、日本政府による積極的な支援表明や、金融機関の融資、電力会社の協力などが欠かせない。

 もし、総選挙後の新政権が「脱原発」の政策をとる場合、「輸出は別物」という論理で原発輸出の支援に動くことは微妙になってくる。経済産業大臣が自国でゼロにする原発を、他国にでかけて推奨することは論理矛盾と見られるだろう。

 電力会社も既存原発の安全対策に手いっぱいで、社員を海外に派遣する余裕はない。実際に東芝がトルコで有利に立っていた受注交渉では、東京電力が脱落したためにリードを失いかねない状況になっているという。トルコ側は「日本政府は国内政策と輸出を分けて考えてくれるのか」と懸念を示している。

 二つ目は、これらの新興国や途上国の原発を日本メーカーが獲得することは、米国の安全保障や原子力産業にとって、対中国戦略での点で大きな意味を持っているという点だ。

 中国は現在の14基を70基に増やす計画を進めており、福島事故後にいったん凍結した建設計画を再開した。フランスの技術をベースに国内200社が機器を製作し、

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