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アベノミクスを脅かす欧州情勢

小原篤次 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

 モスクワでの主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は16日、閉幕した。共同声明には、「通貨安競争を回避する」が盛り込まれたが、日本や中国を名指しされるようなものにはならなかった。当面は、24─25日のイタリア総選挙で、ユーロ体制に懐疑的な前首相ベルルスコーニ陣営の追い上げが為替市場の不安要素である。

 「円安の理由をひとつ」と問われれば、「ユーロ崩壊」など欧州債務問題への極端な懸念が後退したことをあげる。2点目には、米国大統領選挙が終わったことだろう。米国連邦準備制度(FRB)は昨年9月13日、量的緩和第3弾(QE3)を決め、オバマ大統領が再選を果たしている。そして3点目には、自民党が2%のインフレターゲットを選挙公約に掲げ、金融政策をプッシュしたことにも言及しなければならない。1点目は、為替という二つの通貨の相対評価からはユーロ圏の安定に向けた政策動向は極めて重要である。2点目は、通貨の持つ政治的要素からタイミングの点で見逃せない。日本の総選挙が大統領選挙前なら、ドル高円安につながる自民党の金融緩和主張は、日米関係にとって障害になっただろう。

ユーロが円、ドルに対して高い

 世界の外国為替で最も取引量があるのはユーロ・ドルである。世界の為替取引で最も重要視される。欧州中央銀行(ECB)は対ユーロの価格データ(44通貨)を公開している(図表1)。それによると、昨年1月以降でユーロが最も減価したのは終値ベースでは、円、ドルともに7月24日である。1ユーロ=94.63円、1ユーロ=1.2089ドルである。今年2月8日終値で7月24日から、ユーロ/円で30.5%、ユーロ/ドルで10.6%、ユーロはそれぞれ増価している。円は半年ほどの間で、ユーロに対して3割も安くなったことになる。

 他方、リーマンショック前、ユーロが最も増価したのは、対円が2008年7月28日の169.75円、対ドルが2008年7月15日の1.599ドルである。今年2月8日現在、2008年7月の高値と2011年7月の安値の変動幅に対して、円で62.5%、ドルで49.1%価格が上昇したことになる。なおドル/円では昨年10月28日(午後5時時点)、1ドル=75.84円が円の最高値で、2月8日に比べると、22.3%減価している。

セーフティーネット整備を急ぐユーロ圏

 では、ユーロ圏に何が起きたのだろうか。ユーロ圏は通貨と金融政策を統合したものの、財政統合がなされておらず、セーフティーネットが無きに等しい状態から、2011年9月以降、具体的な合意形成が進んできた。

 ドラギ総裁は8月2日、信用低下が懸念されていたスペインとイタリアの国債買い入れの方針を表明し、9月6日のECB理事会では、新たな国債買い入れプログラム(OMT)の実施で合意した。量的な限度を設けることなく償還期間3年までの国債を流通市場から買えるようにした。欧州救済基金の欧州安定メカニズム(ESM)が10月8日に設立して、最大5000億ユーロの融資が可能となった。さらに欧州連合(EU)は12月14日、ECBがユーロ17カ国の銀行監督一元化を担うことで合意したばかりだ。

 国債つまり長期金利は、金融市場のなかで、

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