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好調タイの足許を脅かす少子化と大家族制の崩壊

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 タイの経済が好調だ。幹線道路が近隣のラオス、カンボジア、ミャンマーなどに縦横にのび、製造業が集積する。企業は国別に置いていた生産や物流の拠点を、国境を超えて効率よく再編成できるようになった。モノやカネの自由な行き来を目指すアセアン経済共同体の中心に位置するタイ。2013年は5%の経済成長を見込んでいる。

若い労働力を吸収するバンコクの繁華街

 しかしタイに行くと、目覚ましい発展の陰で、地方の若者たちが仕事を求めてバンコク圏に流出し、農村部では古くからの大家族制度が崩壊。老人たちが年金など社会保障制度もないまま取り残されている現実が見えてくる。

少子化も急ピッチに進む(グラフ参照)。出生率は1.6人で落ち方は激しく、バンコクに限れば0.9人に達しない。少子化が大問題になっている韓国、台湾、香港、シンガポール、日本などと同じ道をたどっている。

生産年齢人口が多い「人口ボーナス期」は、タイでもいずれ終了に向かう。人口ボーナスは経済発展の土台になるものなので、このままでは将来のタイを待ち受けているのは、いわゆる「中進国の罠」であろう。

 タイ北部の都市チェンマイの観光業で働く46歳の会社員Aさんは、中学生の娘2人を私立学校に通わせているが、その学費負担に悲鳴を上げている。義務教育は小中学校まであり、公立学校なら安いが、教育内容に満足できなくて私立を選んだという。

 誰もがパソコンやスマホ、テレビを持ち、様々な情報が市民の目に入ってくる。競争意識や上昇志向が高まり、みな教育熱心になっている。Aさんは「教育費が大変だと分かっているので、最近の若者は子どもを作らないし、結婚もしない」と言う。

 日本企業や欧米企業は、

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