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賃金上昇がデフレ脱却の核心/政労使が共同する時だ(下)―日本総研 山田久調査部長インタビュー

聞き手:編集長 矢田義一

 ――政労使と一口で言っても欧米や日本で組合のあり方にも違いがあります。日本は組織率が2割を切るような状況で、労働の側がとりわけ弱くなっています。

 ヨーロッパというのは、社会の仕組みをつくるのに労使というのが基本なのです。彼らはパートナーシップという言い方をします。日本でも本来なら、労使が自主的に話し合い、取り決めをしていき、そこに政府が補助的に関わるのが望ましいのですが、労働組合が徹底的に弱くなっている。バーゲニングパワーが崩れてしまった。

 また、労働組合そのものの問題ですが、ヨーロッパというのは、もともと労働組合のつくられ方が違うからですが、正社員ばかりの組合ではない。正規、非正規という考え方ではなく、職種別とか産業別に組合をつくっていますから、日本の組合よりはもう少し社会全体の発想をもちやすい。日本の場合は正社員組合という伝統があるため、非正規をとりこむことが十分できてない。その結果としても組織率さがってきて、力が落ちている。組合のリーダーの中にはそういう問題意識を持っている人はいるが、組合が、企業サイドと対等に渡り合うのは、今の状況ではできません。従って両者の間に政府が入ってこざるをえないということです。

 政府が仲介役となり、こういう分野での知見をもっている人たちがきちんと客観的、中立的な立場で、今後の日本のビジョンをつくる。経済原理を入れて改革をしていかざるをえないが、社会政策のところは、ヨーロッパのように、きちんと社会保障の仕組みを変えていくとか、労働市場の公正さを確立していくとか、ということが重要になる。そういう具体的な共通認識をつくるため、まずは大きなビジョンなり、方向性なりを、第三者機関的なものがつくる。それをもとに、政労使が一定の共通の認識をもっていく。たぶんこれが出発点になると思います。

 単純に今のまま、政労使を集めて何かやれといってもたぶん何も進みません。現在の日本がかかえている諸問題についての認識すら必ずしも十分に共有できていないでしょうから。今年の春闘の時のように、政府が単純に、企業はできるだけ賃金を上げる努力をしてください、というと、ボーナスなどは少し出すでしょう。でも、それだけです。一方で、労働移動については、組合の方もいろいろ受け入れがたい。すると、限定社員ぐらいちょっと受け入れるというような対応になる。それでは、抜本的な動きになってこない。

 賃上げも最終的には、基本給まで上げていくということにもっていかないと不十分だし、労働移動の方は、正規労働者が、きちんと労働移動ができる仕組みをつくらないとだめです。本来、景気の良いときほど労働移動がしやすく、企業は事業再編に取り組むと同時に受け皿づくりや技能転換を支援する一方、組合側は労働移動を受け入れていくという、そこまでの合意をえないと、本格的に変わっていかない。くどいですが、そのためには、共通の状況認識を、共通認識をしっかりともつ必要があります。

 ――しかし、今の厳しい経営環境では、政労使の共同はやはり難しく感じられます。特に労働組合の弱体化は深刻です。

 今の労働組合も、正規雇用の代弁者としては使えます。でも、非正規の代弁者がいない。ここがまさに日本の難しいところで、学識者らに頼らざるをえないところがある。政労使といいながら、労働に関して知見のきちっとある公平な見方のできるような有識者とかですね、これが必要になってくると思います。確かに、絶望的に難しい状況ともいえます。現実的に考えていくと、一気に賃金を大きく上げていくとか、産業の構造転換が一気にわあーっと進んでいくことなどありえない。

メーデーの集会の最後にシュプレヒコールをあげる参加者たち=2013年5月1日午前、大阪市中央区 メーデーの集会の最後にシュプレヒコールをあげる参加者たち=2013年5月1日午前、大阪市中央区

 ただ、ある意味、この2~3年の変化で希望が持てないわけではない。一つには、今の労働組合のかたちではだめだという認識が組合の中に出てきたことです。NPOや社会的企業の動きをみていると、労働者、働き手、あるいは生活者の連帯のようなものを再構成していくことがものすごく重要だということを国民レベルで気づき始めている面もみられる。あるいは経営者がそういうことをもう一回再認識する、政府もそう本気で考え出す。そんな兆しが見えています。

 企業も賃金を下げ続けることは極めて異常だという基本的な認識を新たにした方がいい。世界をみたってそんな国どこにもないわけです。そういう20年間続いてきた、ある意味で働く人たちが分断されてきた状態が普通なんだ、という考え方を見直そうという動きは出始めている。経済がデフレの海に沈みゆくなか、

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