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ベゾスの才覚に賭けるワシントン・ポスト(上)

石川幸憲 在米ジャーナリスト

 メディアは、誰もが経験したことのない大激動期に立ち向かっている。常識が効力を失い、非常識が常識になるという混乱が日常化している中で、米国を代表する有力紙のひとつである「ワシントン・ポスト」紙が通販世界最大手アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEOに買収されるというニュースにショックを覚えた読者は多いだろう。

 私もその一人である。皮肉なことに「ワシントントン・ポスト、ベゾスが買収」という一報に触れたのはスマートフォンであった。日課にしているサイクリングの途中でメッセージの有無をチェックしようとしたら、ニューヨーク・タイムズの速報サービスで上記の見出しが画面に躍り出ていた。我が目を疑い二度ほど確認したあと、同紙のモバイル・アプリで記事を斜め読みする。帰り道では2年半前に本の取材(「ワシントン・ポストはなぜ危機を乗り越えたか」、毎日新聞社)で二度ほどインタビューに応じてくれたドンとの会話を回想しながら、この非常識な決断の意味を考えることで頭がいっぱいになった。

 ドンとはワシントン・ポストの親会社ワシントン・ポスト・カンパニー(以降、カンパニーと称する)のドン・グラハムCEOのことである。同紙を80年にわたって経営してきたマイヤー・グラハム家の嫡子ドンは、新聞記者を経験したあと印刷や営業部門で新聞事業のイロハを叩き込まれ、成るべくして成った生粋の新聞人である。母親は米メディア界のアイコン(偶像)であったキャサリン・グラハム。ワシントン・ポスト紙社主であった夫の自殺により主婦から社長業に駆り出され、同紙を超一流の新聞へと発展させた最大の功労者である。

 「ドンの不幸は、この偉大な経営者を母親にもつことだ」、と同紙元幹部は言い放つ。どんなに逆立ちしても、ウォーターゲート事件の報道を裏で支え、事業の多角化の舵取りをした母親の足下にも及ばない。万事順風満帆でもせいぜい

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