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[1]社会保障制度はソントクで考えるべきもの

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 若者はワリを食っている。世の中の仕組みを作っているのは大人だから、必然的にそうなるものである。ワリの食い方には様々なものがある。一見して明らかなものもあればそうでないものもある。以下、5回にわたって若者がワリを食っているという事実を示し、それに対してどうしたら良いのかを考えてみたい。

社会保障は高齢者のもの

 社会保障は多くが高齢者のもので、子供手当など若者向けのものは少ない。2010年の高齢者向けの社会保障給付費(年金、65歳以上医療費など)は、65歳以上人口当たり253万円である。

 一方、高齢者以外向けの社会保障給付費は65歳未満人口当たり29万円にすぎない(国立社会保障・人口問題研究所「社会保障統計年報データベース」などにより計算。社会保障費を医療費、年金、福祉その他、に分け、65歳以上医療費、年金を高齢者向けとし、福祉その他は、65歳以上人口比で案分した)。

 ここで29万円は、医療費(年齢階層別の数字が推計されている)と年金以外の社会保障給付費(生活保護費等)はすべての年齢の人口に平等に給付されるとして推計したが、実際には、生活保護費も高齢者に支払われている部分が大きいので、この推計はおそらく過大である。要するに、社会保障給付費の圧倒的部分が高齢者向けの支出である。

 高齢者一人当たり253万円なら、高齢夫婦2人で503万円である。一方、働く人の平均給与は年409万円である(国税庁「平成23年分民間給与実態統計調査結果」(2012年9月))。しかも、この数字は1997年をピークに、デフレを反映して年々減少している。

 2060年には、65歳以上の人口と15-64歳人口(生産年齢人口)の比が、4対5になる。ほぼマンツーマンで高齢者を支えることになる。

 どうしてこんなに潤沢な高齢者福祉が可能になるのだろうか。その時の税金や社会保険料がとんでもないことになっているだろうことは、常識で予想がつく。計算は省略するが、2060年に追加的に必要となる社会保障支出を消費税で賄うとすると、必要な消費税増税幅は60.2%となる(数字の根拠は原田泰『若者を殺す日本経済』ちくま新書、にある)。

 60.2%の消費税増税は不可能だから、社会保障支出はカットするしかない。社会保障支出を30%カットする(これは、高齢者一人当たり社会保障給付費253万円を177万円に下げるということである)と、2060年に必要な消費税増税幅は12.2%ですむ。これなら実現可能な消費税率の引き上げ幅だろう。

 しかし、現在の高齢者は、一人当たり253万円の社会保障費を得ているのに、将来の高齢者、すなわち、現在の若者は177万円しか得られないということである。社会保障は親孝行の連鎖だから、損得で議論するべきではないという議論があるが、今の高齢者は現役世代により大きな親孝行を求め、将来の高齢者はより小さな親孝行しか求めることができない。社会保障は、まさに損得で議論すべきものなのだ。

過度の親孝行は国を滅ぼす

 高齢者への社会保障は、国民全部が行っている親孝行である。親孝行は大切である。年老いた親をいたわり、食事を用意するのは人間だけである。懸命に子育てする動物や鳥は多いが、年老いた親のために子どもが餌を取ってくるという動物はいない。

 確かに、現行の年金制度が確率する前から、現在の高齢者も、それ以前の高齢者も、年老いた親の世話をしてきた。しかし、現行の高齢者福祉制度ほど親孝行をしてきたはずはない。

 子どもは確かに親の面倒を見てきたが、食事と寝る場所を提供してきただけだった。それだけなら、年に一人100万円もあれば足りるだろう。高齢者が、自分の子どもの親孝行に頼っていた時代には、年に100万円程度のことで、自分の子供は親孝行だと喜んでいた。そもそも、昔だって、すべての子どもが最低限の親孝行をしてくれる訳ではなかったからだ。親を放り出して、行方不明になってしまう子どもなどいくらでもいた。

 ところが、年金制度や高齢者のための医療保険制度ができ、他人の子どもに頼るようになると、際限がなくなってくる。社会保障制度ができ、国家権力が必ず自分の老後を保障してくれるとなって、子どもすらも産まなくなった。何かおかしくはないか。

 過度の、しかも、他人の親に親孝行を強制するような制度は国を滅ぼす。しかも、その制度を持続させることが国家100年の大計の責任ある態度と論ずる人が出るに至っては、もはや日本という国家が滅んでいると言うべきだ。社会保障は世代間の助け合いである、などと能天気なことは言っていられない。・・・《続く》