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コスト管理、顧客動向・・・消費税10%をにらむ賢い経営とは

小原篤次 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

 長崎県の地理的距離は、首都圏より韓国や中国に近い。かつて唐船のほか、スペインやポルトガル、オランダの船が長崎、対馬、平戸など九州に寄港し、江戸幕府が「鎖国」と、のちに呼ばれた管理貿易政策を採用した歴史が偲ばれる。

 4月1日は、そんな首都圏から遠く離れた場所でも、同じ経済制度が適用されていることを痛感させられる一日だった。価格という経済学の基本が感じられる日とも言える。

 消費税引き上げ前の駆け込み需要ではないが、3月後半、春休みの学生たちが福島県における再生エネルギーについて、人手不足の視点から論文を作成するため、大学に集まった。学生たちは近隣のカフェで、深いため息とともに消費税改定を実感することになった。

 消費税が5%から8%に改定されたほか、価格自体の上昇も起きている。メディアが批判する「便乗値上げ」現象も確認される。住宅街の主婦層でにぎわうカフェでは、コストの上昇を理由に、5%税込み表示の従来型のメニューに、4月以降は、消費税を含まず、外税方式8%で消費税を計算するとしていた。

 つまり、消費税抜きの価格を5%分、「便乗値上げ」したことになる。例えば、762円のメニューなら、5%の税込みで800円と表示され、4月以降はこの価格に8%分を上乗せして、864円を徴取する計算方法になる。

 確かに経営者としては、消費税改定に合わせて、最低賃金改定に伴う人件費の高騰、円安、液化天然ガス(LNG)価格上昇などによる電力やガス料金の改定、乳製品の上昇など、損益分岐点を計算し直す必要が出ている。経営者の立場になれば、「便乗値上げ」の批判は当たらない。

人気店の価格戦略

 ちなみに、学生の実害はほとんどない。長期休暇を除く通常期には、大学の生活協同組合がカフェの半分程度の価格で、ランチを提供しており、代替となるサービスが提供されている。弁当持参の学生も少なくない。栄養面で疑問もあるものの、カップ麺でランチを済ませる学生も見受けられる。

 2人に1人が奨学金を借りる現在の大学生のお財布には、2倍の価格差はあまりにも大きい。またカフェの経営者は人材面で大学生のアルバイト従業員を使う程度で、大学生に売上を依存しているわけではない。学生を含めて大学関係者には「割引」制度が設けられているものの、近隣で唯一とも言えるカフェはお客さんが絶えない。人気店ならでは、価格戦略である。

 ただし、市街地のカフェやレストランでは、こうした強気の価格戦略は採用しにくい。税引きの価格を据え置き、料理やケーキのサイズを縮小させるほか、従業員数を見直しするだろう。家族経営の店舗も地元中堅企業、全国大手企業との競争があり、

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