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「健康寿命延伸社会」への険しい道(下)  目指せ生涯現役、後発医薬品、ICTの活用も

石川和男 NPO法人社会保障経済研究所代表

高齢者の肺炎予防策の強化

 厚労省プランでは、高齢者の誤嚥性肺炎の予防に向けた口腔ケアのほか、成人用肺炎球菌ワクチンの接種を推進することで、医療費約0.8兆円の効果額を目標としている。

 高齢者の肺炎予防の推進は、医療財政の観点から明らかに効果的な施策であろう。厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会「ワクチン評価に関する小委員会報告書」(平成23年3月11日)によれば、現行の高齢者向け肺炎球菌ワクチンを全ての65歳の人に接種すれば、その効果が持続する5年の間、年間で約 5,115 億円の医療費削減効果があると推計されている。実際、厚労省によれば、早速今年10月から定期接種ワクチンとして65歳以上の対象者に接種開始すべく制度改正が行われている。

 他方で、同報告書では、上述の現行肺炎球菌ワクチンについて「肺炎そのものの発症を予防する効果は見られなかったとの報告」があるなど、「効果の持続期間や免疫原性について今後も改善の余地」があると書かれている。第7回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会(平成25年11月18日)での議論においても、一部の委員が当該ワクチンについてインフルエンザワクチンとの併用を前提に「日本で議論する中では、肺炎を予防するワクチンとして評価できるのではないか」と述べる一方で、別の委員が「肺炎に効くと大ざっぱに大きな声を出して言えるワクチンではないというのが世界の常識」と疑問を呈するなど、専門家の間でも意見が分かれている。

 この点に関しては、厚労省プランで掲げられた点を考慮すれば、高齢者向け肺炎球菌ワクチンを極力早期に定期接種化していくべきだ。更に、より効果の高い肺炎球菌ワクチンを早期に開発・導入すべく行政含め医療関係者が努力することが、医療費削減効果を最大化していく上で肝要であろう。

 もっとも、より効果の高い肺炎球菌ワクチンが定期接種化されたとしても、実際の接種率が上がらなければ実効性は確保されない。厚労省が定めた「予防接種に関する基本的な計画」の中でも、定期の予防接種の接種率向上に向けて国や市区町村で取組を進められていくべきと謳われている。

 この一環として、例えば、高齢者世代のみならず、高齢者世代の親を持つ現役世代への周知・啓蒙を併せて行っていくことで、高齢者世代の接種率向上を図ることができるのではないか。予防接種の副反応などのリスク情報を含めた予防接種の内容やその重要性を広く周知していく普及・啓発活動を、定期接種化と合わせてしっかりと行うことが必須だ。

生涯現役社会の実現のための施策

 厚労省プランでは、医療費・介護費の効果額を明示してはいないものの、高齢者と地域社会のニーズについて有効なマッチングの仕組みの整備やシルバー人材センターの活用を図りながら、生涯現役社会の実現に向けた環境整備を進めようとしている。

 総務省統計局の発表(2014年4月15日)によると、2013年10月1日現在の日本の総人口は1億2729万8千人(前年同月比▲21万7千人(▲0.17%))で、男性は9年連続、女性は5年連続の自然減、生産年齢人口が32年ぶりに8000万人を下回り、4人に1人が65歳以上という(図表10)。

 働く意欲と能力のある高齢者が、その経験と能力を活かしながら就労・社会参画していくことが更に重要な時代に突入している。一般に「65歳以上」が高齢者として区分され、概ね現役世代から退役世代へ移行していく時期とされている。経験豊富な人材としての高齢者を有効活用する受け皿を用意しておくことは、日本が直面する労働力不足を補完する役割を担うことにもなる。

 このような高齢者の所得が増えれば、現役世代の医療費負担の軽減にも資する。効果額が明示されていないこのような取組についても、劣後することがないよう進めていかなければならない。

 日本では、高齢者が高い就業意欲を持っている。内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(2008年度)によれば、65歳ぐらいまで働きたいと回答した人が約9割、70歳ぐらいまで働きたいと回答した人が約7割を占めている。労働力不足の補完という観点だけではなく、健康寿命の延伸という観点からも、

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