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『アメリカン・スナイパー』現代の戦争を問う大作

テロに向き合う時代に何を読み取れるのか

小原篤次 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

 ハリウッド映画を見て久しぶりに重苦しい気分になった。クリント・イーストウッド監督の『アメリカン・スナイパー』である。

「アメリカン・スナイパー」の主人公クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)=ワーナー映画提供

長く記憶される戦争をテーマにした大作の一つ

 2003年から2009年まで、ネイビーシールズ(海軍特殊部隊)のスナイパー(狙撃手)として4度にわたってイラク戦争に参戦し、160人の「敵」を射殺して、同僚から「レジェンド」(伝説)と称賛されたクリス・カイルの書籍を基にして映画化された。アカデミー賞にもノミネートされていた。

 ベトナム戦争を扱った『ディア・ハンター』(マイケル・チミノ監督、1978年)、『地獄の黙示禄』(フランシスコ・コッポラ監督、1979年)、『プラトーン』(オリバー・ストーン監督、1986年)、第二次世界大戦を扱った『シンドラーのリスト』(スティーヴン・スピルバーグ監督、1993年)、『硫黄島からの手紙』(イーストウッド監督、2006年)などともに、戦争をテーマにした大作の一つとして長く記憶されることだろう。

 普段、実戦や従軍だけではなく、銃にさえ縁遠い日本人が見ると、政治的立場を抜きにして、戦争の残酷さをストレートに感じるだろう。他方、第二次世界大戦の過去70年間でも、幾度も戦争を経験し続け、銃による事件が続いても、規制が進まない米国社会では、『アメリカン・スナイパー』に対して戦争や軍隊を礼賛、美化しているとの批判も起きている。

 一部の米国人には、イスラムの敵と対峙した英雄に映るだろう。かつてのカイルのように、「祖国を敵から守りたい」と次世代の「愛米意識」を喚起するかもしれない。

 カイルは父親から8歳の時からライフルを学び、映画では、イラク戦争の心理的葛藤を抱えながらも、カイルが息子と狩猟に出かけるシーンもあった。銃に対する米国人の感覚は、なかなか日本人には理解しがたいものだろう。

同時多発テロからイラク戦争、そしてイスラム国へ

 いまイラク戦争と聞くと、2001年の米国同時多発テロ事件(ワールドトレードセンターには当時、富士銀行など多くの金融機関が入居していた)、その後、大量破壊兵器が見つからなかった(開戦の正当性がなかった)こととともに、イラク占領政策で終戦後の日本を参考にしようとしたことが忘れられない。

 ブッシュ(ジュニア)大統領がイラク戦争を開始する際、「日本とドイツが民主化したように、イラク国民も民主化が可能である」という旨の演説を行ったことである。占領下の日本社会についてまとめた『敗北を抱きしめて』の著者ジョン・W・ダワーは、

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