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[18]春闘より強力な賃上げの切り札

注目浴びる労働契約法20条訴訟

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

 春闘では、大手輸出メーカーの正社員に対する月額4000円、3000円の賃上げ報道が続き、大手流通業界でのパートの賃上げも伝えられた。アベノミクスは円安による輸入物価高と消費増税を上回る賃上げに迫られているが、働き手の4割近くを占めている非正規労働者たちの賃金のほとんどは、低水準のままだ。こうした働き手たちの賃上げの強力な切り札として注目されているのが、労働契約法20条訴訟だ。

仕事が賃金に反映しない社会

 春闘さなかの3月末、東京・上野の東京メトロ本社前で、4人の女性たちが連日座り込みを続けていた。地下鉄の駅構内にある売店の販売員を雇用する同社の子会社、東京メトロコマースの契約社員たちだ。

 同社の直営店の販売員は正社員、契約社員A・Bの3層に分かれ、女性たちは契約社員Bにあたる。昨年5月、同じ仕事の正社員と比べて手当などに格差があるのは、有期社員と無期社員の間の不合理な格差を禁じた労契法20条に違反するとして、初の訴訟に踏み切った。

 法廷で明らかにされた会社側資料では、正社員は勤続年数や年齢などに応じて昇給する年功賃金で住宅手当、家族手当、資格手当・成果手当、退職金が出る。ところが、契約社員Bは労働時間も仕事内容も同じで勤続19年の人までいるのに、時給は1000円が基本で、手当も退職金もない。

 深夜労働手当も正社員3割5分増しに対し、契約社員Bは2割5分増し、傷病時の欠勤も正社員が6カ月間有給で認められているが、契約社員Bは無給と、あらゆるところに格差がつく。

 ところが65歳定年制だけは正社員と同一で、今年の3月末には原告1人を含む11人の契約社員Bが退職させられる。低賃金で蓄えもできず、退職金もないため生活見通しが立たないとして、今回は、水際での定年撤回を求めての座り込みとなった。

相次ぐ20条訴訟

 こんな事態が起きるのは、日本に「同一労働同一賃金」「均等待遇」の仕組みが整備されてこなかったことが大きい。昨年の国会で安倍晋三首相が「職業訓練の義務付で派遣労働者のキャリアアップを支援する」と述べた際にしらけムードが漂ったのも、

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