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中央リニア新幹線の何が問題なのか

地方創生に逆行、資源などにも不安

まさのあつこ ジャーナリスト

  「東海道新幹線(の利用客)はJRになる前から1.4倍伸びているんですよ」。JR東海の執行役員である江尻良広報部長は、リニア中央新幹線が赤字になるのではないかとの指摘に対して、こう話し始めた。

 「日本全体では人口減少していくと思う。しかし、東京、名古屋、大阪では、厚生省が出しているデータでも減り方が非常に遅い。かつ企業とか人々の生活の中で『人口巨大集積地』として残っていく」

 中央リニア新幹線が「絶対にペイしない」と2013年に記者達の前で公言したのは、JR東海の山田佳臣社長(現会長)自身だが、それを「見切り発車」と批判する(*)と、その真意を広報部長から丁寧に説明を受ける機会を得ることができた。「『ペイしない』は東海道新幹線を一緒にやっていけば設備投資を回収できるという意味」だと部長は述べ、さらに次のように補足した。

 「中央リニア新幹線はバイパスになるわけで、「のぞみ」のお客さんはリニアに移ると思います。東海道新幹線の使い方が変わってくると言いますか。静岡や浜松に停めて欲しいと言われていますが、新幹線は岡山や広島まで行かないといけないので、東海道新幹線は「のぞみ」の通路になってしまっています」

 これでJR東海の考え方がより明確になった。

巨大都市集中を前提としたビジネス

 リニア中央新幹線の環境影響評価の手続きでJR東海が住民らに説明を行った資料では、その必要性として、東海道新幹線が開業から47年を経過したための老朽化対策や、大規模地震があった場合に備えての「二重系化」が強調された。

 しかし、実のところ主眼は、同資料にあった下図にも現れているように、東京・名古屋・大阪という「人口巨大集積地」への機能集中を前提としたビジネスなのである。

出典:JR東海資料 中央新幹線計画の概要

 2011年5月、東日本大震災直後の混乱のただ中に、国土交通大臣がJR東海を建設主体とする「超電導リニアによる中央新幹線」の整備計画を決定して4年。リニアモーター推進浮上式鉄道の研究が開始された1962年からは半世紀、東京・名古屋間を建設費5.5兆円で2027年に開業、東京・大阪間を9兆円で2045年に開業を目指す具体的な計画がようやく見えた。

 基本計画の次なる手続き「工事実施計画」は、2014年10月に認可されたが、その申請に必要だった環境影響評価は2014年8月までに完了した。評価対象は東京・名古屋間に限定され、その先の延長路線を合わせた総合的な影響評価は行われていない。

 また、諸外国では常識となった経済評価や社会評価は行われていない。日本では法制度に不備があるからだ。大動脈の「二重化」で日本の社会経済や生活環境がどのように影響を受けるか、マクロな視点での国民的な議論も未だ行われていない。まして、通過される小さな集落で暮らす1人ひとりの幸せなど、『人口巨大集積地』のコンセプトには存在しないのだろう。

釜沢地区に暮らす谷口昇さん=2014年7月、筆者撮影

 中央新幹線が通過する長野県大鹿村では30年ほど前からスローライフを営むIターン者が増えている。釜沢(かまっさわ)地区(写真)に暮らす谷口昇さんは移住者の1人だ。立て坑からトンネル掘削土が運び出されるため、工事期間中、村中心部は工事現場と化すことになる。

 JR東海による住民説明会で、山道にダンプカーを往来させる危険性を尋ねた際、「迷惑をかけないように通す」と、何でもないことのように回答され、「許せないと思った」と谷口さんは語っていた。

 そんな声にはおかまいなしに、同社は今年4月の走行試験で、最高設計速度の毎時505キロメートルを超えて603キロメートルを達成したことを、「鉄道の世界最高速を更新した」と発表。最新テクノロジーの可能性を華々しくアピールした。

 しかし、リニア新幹線そのものの一極集中的なコンセプトがそもそも安倍政権が謳う「地方創生」とは矛盾することや、技術、資源問題が潜在していることも含め、広く一般に周知されていないことはあまりにも多いのだ。

「国家的見地」で地方財政にシワ寄せ

 社長自ら「ペイしない」と述べた翌2014年度の税制改正で、国は中央新幹線の土地取得にかかる不動産取得税(地方税)や登録免許税(国税)を非課税とした。東海道新幹線というドル箱路線で儲かる優良企業からの徴税機会を、財政難にもかかわらず、国、地方ともども逸することになる。

 総務省の都道府県税課によれば、

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