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飲食料品軽減税率の裏側にあるもの

慈愛のこもった日本の政治

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 消費税を10%へ引き上げる際に、財務省は、飲食料品については2%を還付するという軽減税率の方法を提示した。酒をのぞく飲食料品には、8%の軽減税率が適用されることになる。貧しい消費者の人たちの“痛税感"を緩和するのだという。

  消費税については、“逆進性"が問題とされてきた。“逆進性"という言葉を使わずに、“痛税感"という言葉を使う。さすがに、政治家の人たちは言葉の使い方が上手だと感心した。2%も税金をまけてくれるなんて、何て慈愛のこもった政治なのだろうと、日本という国に生まれたことを、つくづく幸せに思う。

与党税制協議会であいさつする野田毅・自民党税調会長(右橋)与党税制協議会であいさつする野田毅・自民党税調会長(右橋)

 それだけではない。我が国の主食である米と麦については、特に、戦前から“食糧管理法"の対象として、政府は責任を持って、国民への安価で安定的な供給に努めてきた。

 戦後の食糧難の時代、高いヤミ値で食料を買えない国民にも、政府は配給制度によって、一定量を安く供給してくれた。50年以上も続いた食糧管理法が1995年に廃止されたのちも、政府は食糧法(「主要食糧の需給及び価格の安定に関する 法律」)によって、米麦の安定供給に努めてくれている。

我が国政治の慈悲深さ

 しかも、我が国の政治の慈悲深さは、消費者にだけ及んでいるのではない。飲食料品の生産者にも、あまねく及んでいる。

 主食である麦については、国産麦の生産者が国際価格よりも高い価格で製粉企業に販売できるよう、輸入麦についても100%近い課徴金を課して、輸入価格の倍の値段で製粉企業に売り渡している。

 それだけではなく、この課徴金で得られた約2千億円の収入は、生産者に直接支払われ、生産者の所得の確保に努めている。

 同じく主食の米については、4千億円の補助金を生産者に払って、生産を減少してもらう。これで米価は上がるので、生産者は高い所得を得ることができる。減反とか生産調整とか呼ばれ、40年以上も続けられている政策である。

スーパーの売り場では、4パックのまとめ買いで割安になるイチゴをPRしていたスーパーの売り場では、4パックのまとめ買いで割安になるイチゴをPRしていた

 主食だけではない。バターは品不足になり、他の物資に先駆けて値段が上昇し、デフレ脱却に大きく貢献している。バターの国際価格は低迷しているので、輸入をすれば、国内価格を引き下げることは可能だ。しかし、それで牛乳や乳製品の価格が下がると生産者は困るので、政府は出来る限り輸入しないようにしている。

 TPP交渉でも、米、麦、乳製品だけでなく、砂糖や牛肉・豚肉についても、関税によって、国内の高い価格を守ろうとしている。飲食料品に軽減税率を適用すべきだと強く主張した政治家の人たちも、このような生産者保護の方法を維持することは、国益だと主張している。

 日本の政治は、生産者にも優しい、慈愛のこもった政治なのだ。

 しかし、このとき消費者はどうなのだろう。

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