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問題設定を変えて、税制全般の改革を考えるべきだ

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

消費税の相対的な位置の推移をみてみよう

 軽減税率の是非を考える枠組みを議論する前に、第一に、日本の国税の税収における消費税の相対的な位置の推移を、先ず眺めるのが肝要であろう。

日本政府の財務省では、以下のリンクで、国の一般会計分の所得税、法人税、消費税、物品税(1989年に消費税が導入された以前)の税収の推移を紹介している。

 主要税目の税収(一般会計分)の推移 

 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/011.htm

日本の国税収入 税目別(兆円)
   1977~2015年度日本の国税収入 税目別(兆円)    1977~2015年度

 上掲グラフは、財務省のリンク先にあるグラフを、見やすく拡大したものである。一瞥して容易に読み取れる事は、消費税が導入された平成期の初め以降では、所得税、法人税からの税収は、ほぼ半分近くに削減され、その削減幅の半分近くを、消費税からの税収増が補填するようになっていることである。

 第二に、消費税、付加価値税などの消費課税という間接税に依存する割合(国民所得に対する割合)と、所得税、法人税、資産税などの直接税の依存する割合は、各国で大きく異なり、歴史的にも大きな変遷を経て来たことに留意するのが肝要であろう。

 日本の国民所得に対する所得税の負担率は、米国に比べても非常に軽いことに驚かれる読者も多かろう。

 以下の財務省のリンクで、各国の最近の実状を比較されたい。

 国民負担率(対国民所得比)の内訳の国際比較(日米英独仏瑞)

 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/020.htm

 第三に、同じく財務省の以下のリンクで、各国の付加価値税(日本は消費税)の概要を比較されたい。非課税、軽減税率、ゼロ税率などの実状が整理されている。

 欧州連合諸国でも、欧州連合全体のガイドライン(指令)はあるが、国別で、非課税、軽減税率、ゼロ税率などの適用範囲は大きく異なる。

 主要国の付加価値税の概要

 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.htm

 第四に、消費税の非課税、軽減税率、ゼロ税率などの適用範囲を考える際に重要なのは、日本国民の所得分布・資産分布が、実際には如何なるものかを把握して置くことである。

 この点に関する公的データは、余りにも乏しいのが日本の実状である。

 そこで、国税庁が毎年公表している「民間給与統計調査」に表れた民間給与所得者の給与階級別の人数分布をグラフ化して参考にしよう。1年を通じて勤務した者、1年未満の勤務者(多くの非正規勤労者、年度中途の退職者など)の双方のデータが、公表されている最新年は2013年である。

2013年の日本の民間給与階級別・人数分布 :男女別・合計
男:3120万人 女:2395万人 合計:5515万人2013年の日本の民間給与階級別・人数分布 :男女別・合計 男:3120万人 女:2395万人 合計:5515万人

日本経済の成長の成果は公平に分配されていない 

 最近30年間余りの米国経済と同様に、日本経済の成長の成果は、非正規労働者の急増に象徴されるように、公平に分配されていないのが実状である。

 2013年の「民間給与統計調査」では、2013年の5515万人の民間給与労働者(役員を含む)の内で、33・2%が年収2百万円以下とされている。女性では53・0%、男性では18・2%が、この所得階層になる。

 年収3百万円以下の階層には、両性の49・1%、女性の71・9%、男性の31・6%が該当する。

 今年10月初めに改定された日本の最低賃金(1時間当たり、全国加重平均)は798円であるので、月間160時間、12カ月働いても、年間で153万2160円(税込)にしかならない。月平均では、12万7680円(税込)である。

 この最低賃金労働者階層には、消費税率の5%から8%、ないしは10%への引き上げは、非常に重い負担となる。

2013年の日本の民間給与階級別・男女別の人数分布(%)
男:3120万人 女:2395万人 合計:5515万人2013年の日本の民間給与階級別・男女別の人数分布(%) 男:3120万人 女:2395万人 合計:5515万人

軽減税率導入に反対する理由

 以上の制度的、統計的な背景を前提に、消費税の軽減税率、ゼロ税率、非課税などの是非を考えてみよう。ゼロ税率、非課税は、税率ゼロの軽減税率ともみなせる。

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