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[22]ゴルフは頭で上手くなる(下)

誰でも上級者になれる

山口信吾 ゴルフ作家

ラウンドでも頭を使う

 多くの人がコースに出るとなぜか思考停止に陥って、残りの距離に応じて盲目的にクラブを選んで、ピンを狙ってフルショットをしている。打っていく先の状況や、自分が打つショットの危険性や成功率について深く考えることはない。長い距離が残り、グリーン手前に危険なバンカーが待ち受けているにもかかわらず、長いクラブでピンを狙う人が多い。案の定、深いバンカーに打ち込んで脱出に四苦八苦している。こんなプレーをしていれば、いつまでも同じ過ちを繰り返すことになる。

 将棋や囲碁では、たとえ初心者でも「こう打てば相手はこう来る」と手を読む。将棋や囲碁では手を読むのが当たり前だと誰もが思っているからだ。一方、ゴルフで手を読む人は少ない。ゴルフは手を読むゲームだと考えられていないからだ。しかし、ゴルフでも「こう打てばこうなる」と読む必要がある。読みを間違えると、コースから大叩(たた)きという手ひどいしっぺ返しがあるのだ。

 ゴルフでも、一手どころか、二手、三手先まで読むことができる。例えば、グリーン手前に深い危険なバンカーが待ち受けている残り190ヤードで、5番ウッドでピンを狙えばバンカーに打ち込む可能性が高い。ライによっては深いバンカーから脱出するのに2打かかるかもしれない。ピンがグリーンエッジから近ければ、寄せるのは至難で3パットを覚悟する必要がある。ダブルボギーどころかトリプルボギーを叩く可能性さえあるのだ。

 この状況では、真っすぐ打つ自信がある7番ウッドで、グリーン手前の花道を狙って打つ妙手がある。花道からであれば“寄せワン"が期待できる。5番ウッドでピンを狙えば大叩き、7番ウッドで花道を狙えばパーを拾える、と読むことができれば、迷うことなく次の一手は決まる。

 ラウンド術といってもそんなに難しいことをするわけではない。打っていく先の状況をよく観察して、自分の腕前と相談して選択肢を考え、最善手を選んでからショットを打つようにすればよいのだ。

 囲碁や将棋では長考も許されるが、ゴルフでは一瞬のうちに状況判断をして選択肢を考え、最善手を選ぶ必要がある。そこで、単純にして明快な「バーディー作戦」「パー作戦」「ボギー作戦」という3つの作戦を検討することをおすすめしたい。「バーディー作戦」は、真っすぐピンを狙う作戦であり、「パー作戦」は、花道やグリーン周りの安全なところに運んで次のアプローチでパーを拾う作戦であり、「ボギー作戦」は、得意な距離を残して刻んで悪くてもボギーを確保する作戦である。

 どの作戦を選ぶかの判断基準は、「この距離なら好ショットが打てる」という自らの「有効射程」である。ぼくの有効射程は150ヤード。グリーン手前が池でも、残りの距離が150ヤード以内であれば、ピンを狙う「バーディー作戦」を敢行する。「バーディー作戦」には池ポチャという危険が伴うが、嬉しいバーディーもある。150ヤードを超えていれば、迷うことなく「パー作戦」か「ボギー作戦」に切り替える。

手前のバンカーに打ち込めば手ごわいダブルバンカー。ピンを狙って先のバンカーに打ち込めば大叩き必至。バンカーを避け左方向へ打ち出してグリーンに乗せるのが得策手前のバンカーに打ち込めば手ごわいダブルバンカー。ピンを狙って先のバンカーに打ち込めば大叩き必至。バンカーを避け左方向へ打ち出してグリーンに乗せるのが得策

 将棋や囲碁では、対局後に対局者が一手一手を振り返る「感想戦」をする。敗者にとって対局を振り返るのはつらいことだ。それでも敗者が勝者と一緒になって感想戦をするのには訳がある。一手一手の大切さを噛みしめつつ手を読む力を養うのだ。感想戦は上達への近道である。

 ゴルフでも、ラウンド後に「ひとり感想戦」をしていれば、ラウンド術が身に付いてくる。せっかくの実戦経験を次のラウンドに生かさない手はない。その日のラウンドの一打一打を振り返って、どんな状況だったのか、どんな選択肢を考えたのか、どんな判断をしてクラブを選んだのか、どんなショットを放ったのか、を思い出すのだ。

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