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自動運転車、社会はどこまで許容するか

事故、コスト、タクシーとの競合

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

ドライバーが自動運転に介入する時に事故が起きやすい

 自動運転をめぐる競争がし烈になってきた。

 技術進歩がもっぱら報じられるが、大切なのは自動運転によって何が変わり、社会はどこまで受け入れるのかという視点である。事故のリスクと責任の所在、車の電子化コスト、タクシーやウーバーなどシェアリングエコノミーの論点から考えてみる。

 下の表は内閣府が自動運転の段階をレベル1~4で示している。日本メーカーはすでにレベル1、2をクリアし、3も試験的に実現している。どのレベルでも緊急時にはドライバーが運転に介入するのが前提だが、実はその際に事故が起きる確率が高まることが懸念されている。

 自動運転に心身を委ねているドライバーが、急にシステムにオーバーライド(上乗り)して事故を回避することは、そう簡単な話ではない。これは自動運転の盲点と言ってよい。

自動運転の段階表自動運転の段階表

自動運転時にドライバーは運転席で何をしているか

 慶応大学大学院政策・メディア研究科の大前学教授は、学生たちを自動運転車に1時間乗せ、大学構内の駐車場を走る間に彼らが運転席でどのように振る舞うかを観察した。

 最初はみな緊張しているが、安全だと分かると、スマホをいじる、本を読む、居眠りする、パソコンで作業するなど、さまざまな行動が見られた。そんなくつろぎの最中に危険が現れたとき、周りの状況を素早く判断して車を安全に操作することは可能なのだろうか。

 こうした人間の性癖は、航空機分野でも指摘されている。今年1月、アメリカ政府のOffice of Inspector General(監察総監室)が出した報告書が注目を引いた。

 これはエアラインの自動操縦に関するもので、「(ボーイングやエアバスでは)パイロットの作業時間の90%以上は自動操縦であり、それに依存しすぎるパイロットは機器の監視や手動操縦の技量が低下する。危険時や自動システムに不都合が起きた時、とっさに手動で対応するのが遅れ、事故に至るケースが増えている」と警告している。

 日本メーカーは現在、自動運転を手動に戻すときは8秒前に告知し、心身の準備をさせる方針だ。しかし、それは高速道路から一般道に出る時のような、余裕を持って自動から手動に切り替える場合の話である。

グーグル車グーグル車

グーグルの自動運転車は街の一般道でトラブル多発

 レベルを順に上げてきた日本に対し、初めからレベル4の完全自動運転の実証試験をしているのがグーグルだ(写真)。同社は1月、「過去15カ月間に計341件のトラブルがあった」と発表した。
道路別では、高速道路などの37件に対し、街中の一般道が304件(89%)と圧倒的に多かった。最近報道されたバスとの接触事故も一般道で起きている。

 一般道の交通では想定外のことが突然起きる。レーンの白線が見えない雪道や悪天候もある。自動運転ではドライバー同士のアイコンタクトが出来ない。グーグルのデータは、一般道を含むレベル4の実現には、事故対応の点で非常に高い壁があることを示している。

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