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狙った効果が出ていない、プレミアムフライデー

若い世代が安心して消費が行える環境整備を

島澤諭 エコノミスト

プレミアムフライデーを盛り上げようと、取り組みに積極的な企業などが東京都内で開いたイベント=6月30日

(1)プレミアムフライデーの現状について

 今年2月24日から、毎月最終金曜日に、15時までには仕事を切り上げて、映画鑑賞や外食、泊まりがけの旅行など消費や余暇活動の充実に充てるプレミアムフライデーがはじまった。昨年12月に設立された経団連等15の経済団体と経済産業省による官民連携の「プレミアムフライデー推進協議会」が米国のブラックフライデーをモデルとして検討してきたものである。

「やめた方がよい」が49%

 このように鳴り物入りで開始されたプレミアムフライデーの実際はどうだったのか。まず、朝日新聞社が行ったアンケート結果に関する記事によると、プレミアムフライデーで期待された個人消費の盛り上がりについては、「効果をあげていない」が76%で、「あげている」はわずか11%に過ぎないという結果だった。さらに、今後については、「やめた方がよい」が49%で、「続けた方がよい」の32%より多かった。年代別では18~29歳だけは「続けた方がよい」が53%と多数派だったが、30代以上のすべての年代で「やめた方がよい」の方が多かった。

 要するに、4人に3人がプレミアムフライデーは効果を上げていないと答え、半数近くがやめた方がよい、と答えているのだ。肯定的なのは、30歳未満の若者層だけ。この世代は親世代と同居していて自由になる可処分所得が多いからだと考えられる。一方で、30歳以上のすべての世代で「やめた方がよい」が上回るのは、プレミアムフライデーに乗っかりたくても先立つお金がないからにほかならない。

消費総額は減少

 また、総務省統計局『家計調査』の「1世帯当たり1か月間の日別支出(勤労世帯)」により、2017年2月からデータが公表されている7月までの半年間におけるプレミアムフライデー当日と前年の最終金曜日における消費金額の違いを見てみると、消費総額では前年より▲1,219円減(前年同期比▲2.6%減)、外食・衣服・履物・教養娯楽といったプレミアムフライデーで想定されている消費に限ってみると、▲1,455円減(前年同期比▲16.2%減)とよりいっそうの落ち込みを示すなど、プレ金消費は総消費額以上に減少しており、政府の目論見とは正反対の事象が生じている。

 もちろん、今年と去年では、天候や所得、日にちなどの諸条件も異なるし、別の解釈ももしかするとあり得るのかもしれないものの、家計側のデータから判断する限りプレミアムフライデーは当初の意図通りの効果を上げているとは到底言える状況でないことだけは確かであろう。

(2)プレミアムフライデーが浸透しない原因は何か

 では、なぜ、プレミアムフライデーは浸透しないのだろうか。

 この「官製花金」ならぬプレミアムフライデーの基本的な発想は、国民は十分おカネを持っているにもかかわらず、労働時間が長すぎておカネを使う時間的な余裕がないから、余暇時間を多く与えることでおカネを使ってもらおう、というものだ。実際、経済財政諮問会議の民間議員が「賃金・所得の伸びに比べて回復のテンポが伸び悩んでいる消費の活性化が喫緊の課題だ」と指摘していることからも、やはり政策当局の共通理解となっていると考えられる。

 しかし、こうした政策当局者たちの認識に全くその通りだと納得できる人は、よほどの大企業や一部の官公庁勤務の人に限られるのではないだろうか。

 実質賃金の変化率を見ると、2012年度から2015年度までマイナスの伸びが続き、2016年度は+0.7%の伸びにとどまり、さらに足元では0.0%から▲0.3%と一進一退となっている。

 国民の多数にとっては、そもそもおカネを使いたくてもおカネそのものが手元にない状況が続いているのに、政府が号令をかけても消費が増えるはずもない。

 また、労働時間については、所定内労働時間は今年の4月まで、残業時間は昨年の12月まで減少が続いたものの、足元ではいずれも増加が続くなど、やはりプレミアムフライデーの効果は出ていない。

 こうしたデータは、もちろん、政策当局者も把握しているのに違いないので、なぜ、プレミアムフライデーのような政策が出てくるのか、個人的にはまったく不思議でしょうがない。ここでは2つの仮説を提示してみる。

①分断仮説

 日本の経済構造の特徴と言えば、大企業と中小・零細企業、正規雇用と非正規雇用、製造業とサービス業の間にある格差、もしくは二重構造と言える。戦前から続く二重構造は高度成長の恩恵を受けて消え去ったかのように見えたが、「失われた20年」を経て、新たな形で再登場した。最近は特に、正規雇用と非正規雇用の間での賃金格差、福利厚生格差、身分保障格差等さまざまな格差が指摘されている。この中で、

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