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[38]最賃アップをめぐる不都合な真実

必要なのは「働き方改革」ではなく、雇う側の「雇い方改革」「賃金の払い方改革」だ

竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

最低賃金だけが頼みの綱

ファストフー業界での賃上げを求める国際共同行動として行われた最賃アップを求める行動=9月4日、東京・渋谷ファストフー業界での賃上げを求める国際共同行動として行われた最賃アップを求める行動=9月4日、東京・渋谷

 最低賃金が10月から各都道府県で引き上げられる。

 今年度は全国平均で25円アップの848円と、過去最高の引き上げ目安が示された。働き手の5人に2人が、最低賃金の引き上げ以外に賃金が上がりにくい非正社員となり、正社員も成果主義や「働き方改革」による残業代削減で賃金が上がらない中、最賃は賃上げの頼みの綱だ。

 だが一方、最賃をめぐっても、地域間格差の拡大や、社会保険料率や消費税のアップによる引き上げ分の吸収などちぐはぐさが目立つ。賃金が上がらない仕組みが隅々まで張りめぐらされたこの社会で必要なのは、「働き方改革」ではなく、雇う側の「雇い方改革」「賃金の払い方改革」ではないのか。

 政府が2016年に閣議決定した「一億総活躍プラン」には、賃金の底上げを狙って毎年3%ずつの最低賃金引き上げが盛り込まれた。

 背景には、最賃に頼るしか賃金が上がらない働き手が大幅に増えている実態がある。

 働き手の5人に2人を占める非正社員は、定期昇給や賞与の対象から外されることが多く、何年働いても最低賃金水準に労働時間をかけ合わせただけの賃金しか受け取れない。最低賃金が時給1000円になったとしても、週40時間で1年働いて年収200万円にも届かない。こうした働き手の比率を増やせば、労使交渉などなくても総人件費は会社の一存で下げられる。

浸透した賃金が上がりにくい仕組み

 一方、正社員でも賃金が上がりにくい仕組みは浸透している。

 「べア(ベースアップ=基本給の引き上げ)復活」といっても、いまや成果主義によって社員は一定のランクに仕分けされ、ランクの最高賃金が決まっているため、ベアが上がっても賃金は上がらない社員が増えている。

 2000年前後から規制緩和が進んだ運輸業界などでは、新規事業者の流入による過当競争で賃金が低下し、激務であることも加わって、担い手も減り、賃金の低下と人手不足が同時並行して起きる事態も招いてきた。高齢化で需要が増している介護業界も、「骨太の改革」などによる福祉予算抑制の影響もあって、長く低水準が続いてきた。

 「働き方改革」でも、大和総研のエコノミスト・小林俊介氏が、罰則付き残業規制が導入されると年8・5兆円(2015年度の年間雇用者報酬の約3%)に相当する雇用者報酬が減る恐れがある、という試算を発表。残業代の面からの減収が話題になっている。

 仕事の量や人員を変えないまま、働き手の生産性アップで残業規制に対応しようとする企業側の姿勢によって、持ち帰り残業の横行など負担は軽くならず、減収だけが進行する、という事態だ。

 つまり、ベアが実施されようが需要が増えようが、長時間働こうが、賃金は容易に上がらない仕組みがこの間に営々と形成され続け、最賃引き上げくらいしか確実な賃上げ方法がなくなってしまった、ということになる。

地域間格差や税・保険のアップ

 だが、頼みの綱の最賃にも「不都合な真実」がつきまとう。

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