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AIに賃金を奪われる女性たち

大リストラが迫る。雇用を失う人々の再教育システム構築を急げ

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

「女は派遣を望んでいる? NO!」。国会近くでのぼりを立て、抗議する「オンナ・ハケンの乱」。派遣切りにあった女性らが、「派遣法を修理しろ〜」と替え歌でアピールした =2011年11月29日、東京・永田町

「雇用大幅減」を深刻に受け止めたドイツ

 AI(人工知能)やロボットによる雇用への影響が具体的に明らかになってきた。中スキル(技能)の雇用が大きく減り、その労働者の多くが低スキルに流入する構図である。

 日本ではとりわけ非正規雇用、中でも女性たちがその影響を受ける。AI時代の格差拡大とジェンダーの問題を考えてみたい。

 今から5年前、AIと雇用について世界に衝撃を与えるリポートが英オックスフォード大学の研究者によって発表された。「10~20年以内に米国の労働人口の47%が機械に代替される」という内容だ。これを機に世界で多くの研究が始まった。

 このリポートに最も敏感に反応した国はドイツだった。ドイツはAIの活用を第4次産業革命(インダストリー4.0)と位置付け、官民挙げて産業の自動化にまい進し始めたばかりだったので、国民に不安が広がったのだ。

 ドイツ政府は同リポートを独自に検証し、①リポートはAIによる雇用増加については何も考慮していない②リポートと同条件でドイツについて計算したら雇用減少は12%にとどまった――という結論を発表。国民の不安を懸命に打ち消した。

「中スキル・ルーティン業務」の雇用が大きく減る

 OECD(経済協力開発機構)も、労働者を高スキル、中スキル(非ルーティン業務)、中スキル(ルーティン業務)、低スキルの4種類に分け、2002~2014年の増減率を独自に分析して発表した(表=米国と日本だけを記載)。

 米国ではIT化が進んだ13年間に、中スキル(ルーティン業務)の雇用が9.5%減る一方、高スキルは7.2%増え、低スキルも3%増えていた。日本でも中スキル(ルーティン業務)が4.5%減ったのに対し、高スキル0.9%増、低スキル1%増であり、米国と同じ傾向にある。

 ルーティン業務とは、仕事の手順が決められていて創意工夫を必要としない仕事のこと。AIやロボット化によって最も代替されやすい分野であり、それが数字にはっきり表れた。

 ただ、日本の増減率は米国に比べると全体に穏やかである。その理由について経済産業研究所の岩本晃一上席研究員は「日本企業は雇用を守るために機械化で効率を高めるより、人による非効率な仕事をあえて温存し続けている可能性がある」と分析する。

高スキルと低スキルで賃金格差が拡大する

 仕事を失った中スキル(ルーティン業務)の人たちは、主に低スキルの雇用へ移行していることも分かってきた。高スキルではなく低スキルに多く移行する理由は何だろうか。

 高スキルは産業界の需要が増えているが、大学や大学院での専門教育を必要とするために習熟に時間がかかる。中スキルの人が転職にあたって急に高スキルを獲得することは困難である。

極限まで省力化された電子機器の生産ライン=オムロン草津工場のHPより
 一方、低スキルの仕事は順次機械に代替されているが、そのペースは遅い。もともと低コストの仕事であり、積極的に機械化を進める理由が乏しい。人手を要する仕事がまだ多く残り、高スキルを諦めた中スキルの人が低スキルに流れ込みやすい。

  スキル別の賃金はどう動くのだろうか。高スキルは、専門人材の供給が短時日では増えないので賃金が上昇しやすい。一方、低スキルは高度な教育が不要であり、中スキルからの流入組も多いので、賃金は抑制される。すなわち、高スキルと低スキルの賃金格差は拡大する傾向にある。

 こうした雇用の二極化は、今後のAIの拡大によって更に拍車がかかると見られる。格差が固定化することは、世代を超えた貧困の連鎖を生み社会を不安定にするので、望ましいことではない。

「非正規・女性」が雇用減の影響を最も受ける

 日本の雇用者総数は5460万人(2017年)である。そのうち37%の2036万人が非正規雇用であり、その68%を女性が占める。すなわち日本の全雇用者の25%(1390万人)が非正規雇用の女性ということになる。

 非正規雇用の女性は、企業の事務所や工場などで働く中スキル(ルーティン業務)の人々が多い。この人たちがAIの拡大で職を失うと、労働市場で賃金格差とジェンダー問題の両方に直面することになる。

 実際、「AI化に伴う雇用削減は男性より女性のほうが深刻な状況になる」という欧米の研究報告がいくつも出ている。

日本企業、5年以内に大リストラか

 今の日本企業の雇用維持の姿勢はいつまで続くのだろうか。岩本氏は「AIやロボット化が当たり前の時代に、日本だけが今の雇用を維持することは生産性の低下を招き、ドラスティックに対応する欧米企業との競争に負けてしまう。遠からず転機が来るだろう」と見る。

 おそらく今後5年以内に、雇用維持の負担に耐えられなくなった日本企業は、せきを切るように中スキル(ルーティン業務)の大量リストラに走るのではないか。大手金融機関が女性の事務系職員(ルーティン業務)を一気に数千~数万人規模で削減する荒療治に踏みだしたのは、その先触れである。

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