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トヨタが狙う、プラットフォーム企業への転換

ソフトバンクと提携し、「モビリティー・カンパニー」目指す

片山修 経済ジャーナリスト、経営評論家

提携発表の記者会見で握手を交わすトヨタ自動車の豊田章男社長(右)とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長=10月4日、東京都千代田区
 トヨタ自動車とソフトバンクはなぜ、提携したのか。

 両社は、日本を代表するハードとソフトの企業で、元来、〝住む世界〟が違う。その両社が2018年10月4日、自動運転技術を活用した〝モビリティーサービス〟分野で提携し、新会社「モネ・テクノロジーズ」を設立すると発表した。資本金は20億円で、出資比率はソフトバンクが50.25%、トヨタが49.75%。将来、100億円まで増資する計画だ。

 提携の触媒役は、同1月、トヨタが米ラスベガスの「CES」で発表した、移動、物流、物販など多目的に活用できるモビリティーサービス専用の次世代EV「e-Palette Concept(イーパレットコンセプト)」である。

 いまや、ビジネスの勝ち組になるには、プラットフォームを構築するのが早道だ。グーグル、アマゾン、フェイスブックなど、ITの巨人企業は、まさしくプラットフォームビジネスで利益を稼ぎ出している。

 トヨタは、クルマをつくって売るビジネスから、グーグルやアマゾンのようなプラットフォーム企業への転換によって生き残りを図る。

 今回のソフトバンクとの提携には、トヨタの〝プラットフォーマーへの野望〟が隠されているのだ。

移動そのものを一元的「サービス」として提供

「私は、トヨタを〝自動車をつくる会社〟から〝モビリティー・カンパニー〟にモデルチェンジすることを決断いたしました。〝モビリティー・カンパニー〟とは、世界中の人々の移動に関わるあらゆるサービスを提供する会社です」

 同年5月に行われた決算説明会で、トヨタ社長の豊田章男氏は、そう発言した。新たなモビリティー・プラットフォーム構築のビジョンを描き、自らの手でトヨタを変える、強烈な意思を示したのだ。

 日本を代表する自動車メーカーのトヨタが〝モビリティー・カンパニー〟として生まれ変わろうとする背景には、世界中で鉄道、バス、タクシーなど、あらゆる移動手段を巻き込みながら進行している「モビリティー革命」の進展がある。すなわち、「MaaS(マース/モビリティー・アズ・ア・サービス)」の台頭だ。

 「MaaS」は、単に「モノ」としての移動手段の提供だけでなく、移動そのものを一元的な「サービス」として提供することを意味する。電車やバスなどの公共交通機関、タクシーやレンタカー、カーシェアリング、ライドシェアリングなど、多様な移動手段を組み合わせ、スマホアプリなどを通じて、移動計画から予約、発券、決済を含めた、効率的な移動を一体的かつワンストップで提供する仕組みだ。

 「MaaS」は、16年6月にフィンランドの首都ヘルシンキ、18年4月に英国バーミンガムで導入されたほか、世界中の大都市への社会実装が計画されている。

 「MaaS」は、モビリティーシステムの全体像を一変させる可能性を秘め、その流れは今後、間違いなく加速される。というのも、「MaaS」の技術的基盤であるICT(情報通信技術)が日進月歩で進展しているからだ。

 IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータをはじめとする最先端技術に加え、膨大な情報をやり取りするための無線通信ネットワークについても、2020年に「第5世代移動通信システム(5G)」の商用化が計画されている。

新技術「CASE」の登場

「自動車業界はいま、100年に一度の大変革の時代を迎えています。その変化を起こしているのは、『CASE(ケース)』と呼ばれる新技術の登場です」

 これは、豊田氏が近年、口にする常套句である。

 「CASE」とは、コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化の頭文字をとった造語だ。あらゆるものがインターネットにつながる時代を迎え、クルマの概念は大きく変わろうとしているのだ。

 クルマがネットにつながれば、情報が増え、さらに自動運転が実現すれば、クルマは所有よりシェアのニーズが増える。それは、自動車業界にとって競争相手や競争ルールさえも変える大変革にほかならない。いや、自動車業界だけではない。その技術進化は、産業の再編成を促すほどの力を秘めているのだ。

 「『勝つか負けるか』ではなく、『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている」と、豊田氏は危機感をあらわにする。

モビリティーサービスのプラットフォーム「e-Palette」

トヨタ自動車が実用化を目指す自動運転車「e-Palette」=今年1月、米ネバダ州ラスベガス
 モノづくりに強みを持つトヨタが、IT企業のソフトバンクと手を組むことは、これまでの常識ではありえなかった。自動車メーカーが、うかつにIT企業と組めば、庇(ひさし)を貸して母屋を取られる。すなわち、モビリティー革命の主導権を握られてしまうのではないかと、自動車メーカーはIT企業との提携に慎重だった。にもかかわらず、トヨタはソフトバンクとの提携に踏み切った。その思惑は何か。

 自動車業界は過去、新車販売台数をめぐって競争を繰り広げてきた。しかし、競争の軸は変わった。いかに多くのデータを獲得するか。そして、データを活用してどんな付加価値サービスを開発するかに移っているのだ。

 競争の軸が変わるなかで、既存の自動車メーカーが自前で戦うのは、ムリがある。技術の「手の内化」を得意とするトヨタも、「100年に一度の大変革」を前にして、IT企業との提携に踏み切らざるを得なかったというのが正直なところだろう。

 ただし、トヨタは、モビリティー企業を目指すにしても、IT企業には、主導権を渡さないという強烈な意思表示をしている。その具体的な姿が、「e-Palette Concept」であり、それは豊田氏の覚悟のあらわれといっていいだろう。

 「e-Palette」は、移動や物流、物販など、多目的に活用できるモビリティーサービスのプラットフォームだ。低床、箱型のバリアフリーデザインで、全長4メートルから7メートルの3サイズが考えられている。自動運転を前提としたEVなので、運転席を必要としない。フレキシブルかつ広い空間に、ライドシェアリング仕様のほか、ホテル仕様、リテールショップ仕様など、サービスパートナーの用途に応じた設備を搭載が可能だという。ボディーは、液晶画面で覆われ、用途に応じて表示が変えられる。

 2020年代半ばまでに、この「e-Palette」を活用して、

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