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温暖化対策は「負担」ではない。「ビジネス」だ

リーダー不在でも合意したCOP24。「決裂」は各国の選択肢になかった

山口智久 朝日新聞オピニオン編集長代理

パリ協定の運用ルールを採択後、壇上で祝うCOP24の議長を務めたポーランドのクリティカ環境副大臣(中央)と各国の閣僚ら=2018年12月15日、ポーランド南部カトビツェ

建設的に議論に参加した米国の交渉官たち

 米国は自国ファーストになり、欧州各国も国内事情で手いっぱい。歴史的な「パリ協定」を採択した2015年とは、COP交渉をめぐる政治環境は様変わりした。

 強いリーダーが見当たらないなか交渉停滞が危ぶまれていたが、ポーランド・カトビツェで開かれていた国連気候変動会議(COP24)は会期を1日延ばして合意にこぎづけ、15日夜に閉幕した。

 合意したのは、2020年以降の地球温暖化対策。土台は「パリ協定」でできていた。京都議定書の「欧州連合8%減、米国7%減、日本6%減」のように、温室効果ガスの排出量を先進国だけに割り当てるのではなく、途上国も含めてすべての国が自主的に削減計画をつくり、国連の場で点検し合うという、より緩やかな枠組みだ。

 今回のCOP24で合意したのは、削減計画の報告の仕方や、途上国への資金支援など細かいルールだった。

 「パリ協定から離脱する」と表明しているトランプ政権の米国の出方が心配されたが、ニューヨーク・タイムズの報道によれば、米国の交渉官たちは建設的に議論に参加していたという。パリ協定から実際に離脱するのは、手続きが済んだ後の2020年。それまでは米国も交渉に参加できる。パリ協定に残る国々が従うルールを厳しくし、米国にとって有利な状況にしておいてから去ろうという算段だろう。

「途上国の総代表」としての面目は保てた中国

 米国が特にこだわったのは、削減計画の報告の仕方だ。排出量が増えている中国やインドなどの新興国も、先進国と同じルールで報告するように求めた。

 これに対し中国は「途上国の総代表」として、自分たちには先進国とは違う緩いルールが適用されるべきだ、と主張していた。パリ協定にも「国の能力の観点から、柔軟性を必要とする途上国には柔軟な運用を認める」と書き込まれている。

 削減計画を報告するには、排出量を計測したり、新技術を導入したりしなければならない。そのためには人材や資金が必要だが、それを十分にそろえられない途上国もある。先進国と同じルールでは難しい、と中国は主張していた。本当は人材や資金が十分備えたとしても、先進国よりも緩いルールに甘んじていたいという狙いもあったのだろう。

 ところが、温暖化による被害に直面している低開発国や島国は中国と距離を置き、先進国と同じルールを求めた。これらの国も、中国やインドの排出増を懸念している。

 最終的に折り合った妥協案が、興味深い。ルールは一つにはするが、途上国には柔軟な運用を認めることにした。ただ、柔軟な運用をしたい途上国は、その期間や必要性を表明しなければならない、とした。

 こうしておけば、例えば中国が「柔軟な運用がしたい」と表明したら、先進国だけでなく、低開発国や島国からも「おいおい、それはないだろ」と批判される。一方、本当に人材や資金が苦しい途上国は、柔軟性を認められる可能性がある。

COP24でパリ協定の運用ルールの採択後、中国の気候変動事務特別代表の解振華(前列左から2人目)が、EU代表と共に写真に納まった=2018年12月15日、ポーランド南部カトビツェ

 気候変動専門のニュースサイトCarbonBriefによれば、この仕組みを提案したのが米国務省に勤めていたベテラン交渉官だというのも、興味深い。

 最終的に、中国は受け入れた。最大排出国が追い込まれたとみることもできるが、「柔軟運用」の項目を残せたことで「途上国の総代表」としての面目は保てた。

 途上国への資金支援策については、今回も途上国の結束は固かった。しかし、求めていた増額は勝ち取れなかった。

負担の押し付け合いと思っていたら、ビジネスチャンスを失う 

 今後、改善が特に必要なのは、海面上昇などで移住を迫られるなど、すでに温暖化による被害が出ている国々への支援だ。ほかの途上国支援とは区別し、「損失と損害」という議題で議論されている。人道上も、緊急に対処しなければならない。

 このほかの、いわゆる途上国支援とは、風力や太陽光の発電所や、効率的な交通システムなどを造ることだ。途上国は、先進国の国家予算からの支出を求めるが、先進国側はできるだけ民間投資を促したいと考えている。

 その民間投資が動き始めている。「低炭素マネー」の流れを止めないためにも、COPでの「交渉決裂」は各国の選択肢にはなかったように思う。

 太陽光や風力による発電コストが大幅に下がり、爆発的に普及している。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、世界での太陽光による発電量は2006年からの10年間で58倍、風力は7倍増えた。

 金融機関も、「今世紀後半に排出実質ゼロ」にするというパリ協定の目標を見据えて、融資基準を設定するようになっている。今月4日、欧州の大手銀行であるBNPバリパ(フランス)、ING(オランダ)、ソシエテ・ジェネラル(フランス)、スタンダード・チャータード(イギリス)、BBVA(スペイン)の5行が、低炭素経済に向かうように融資基準をすり合わせていくと発表した。

 イギリスの中央銀行であるイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、

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