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中国の自動車市場に「異変」

新車販売台数、28年ぶりに減少 日本車メーカーの対応は?

片山修 経済ジャーナリスト、経営評論家

日系合弁会社の自動車製造ライン。日本メーカーは中国市場の開拓に力を入れてきた=広東省広州市
 2018年、中国の新車販売台数は、28年ぶりに減少に転じた。3000万台到達が見込まれたが、実際には、前年比マイナス2.8%の約2800万台にとどまった。自動車減税の終了や、米中貿易摩擦の影響が指摘されている。

 しかし、中国の自動車市場の勢いが、これで止まると考えるのは時期尚早だ。実際、ホンダは今年、武漢に新工場を稼働させるほか、日産は20年、トヨタは21年に新工場稼働を計画しており、中国市場を積極的に攻める姿勢を崩さない。

 「異変」がいわれる中国の自動車市場を、いかに読むべきか。

十分に伸びしろがある中国の自動車市場

 中国の自動車市場について、ピークアウトしたという指摘はあるが、必ずしもそうとはいえない。

 中国の全体需要は、2030年に年間3500万台まで伸びるという説がある。かりにそうだとしたなら、中国市場は年率2~3%の成長を続けることになり、全体需要は、年間約50万台から60万台増える計算になる。

 これは、南アフリカやサウジアラビア規模の自動車市場が、毎年、丸ごと一つ増えていく量に相当する。

 また、中国の自動車保有率は、いまだ世界標準以下だ。人口1000人あたりの自動車保有台数は、15年時点で米国821台、日本612台に対し、中国は116台に過ぎない。少なくとも200台までは伸びるという見方からすると、十分伸びしろはある。

 北米市場や日本市場の成熟度に比べて、中国市場はまだ未成熟であり、大きなポテンシャルがある。この市場を攻めない手はないというのが、自動車メーカー各社の考えだ。

 中国市場と一口にいうが、2800万台の市場を攻めるにあたり、それを単一市場と見ては、戦略を誤る。

 まず、中国の自動車市場は、やや複雑だ。①外資系企業と地場メーカーのジョイントベンチャー(JV)、②地場メーカー、③ベンツやBMWなどのプレミアムブランド、④商用車の四つの市場に大別される。その大まかな規模は、①1200万台、②1000万台、③200万台、④400万台ほどである。しかし、近年②地場メーカーは急進中で、数年内に半数に迫るという見方もある。

地域によって異なる事情

 また、地域によっても、事情が異なる。上海、深圳、北京などの沿岸部では、すでに自動車は飽和し、渋滞や環境問題が発生している。ナンバープレートについて、高額で購入、あるいは抽選など、規制を行う都市は7都市にのぼり、今後、数年内に15~20都市にまで増える見通しだ。これらの地域では、買い替え需要が増えている。

 一方、一部の内陸部や農村部では、まだモータリゼーションさえ訪れておらず、依然、買い替え需要より新規購入の需要が多い。また、若年層と高齢者層では評価するクルマは異なる。つまり、メーカーは、地域や顧客層ごとのニーズに、丁寧に対応する必要がある。

日系のメーカーは健闘

 18年の中国の乗用車市場のブランド別シェアは、1位・独フォルクスワーゲン(VW)、2位・上海汽車、3位・米GM、4位・吉利汽車に次いで、5位・日産、6位・トヨタ、7位・ホンダと日系メーカーが続く。

 日系JVの中国での18年の販売実績は、18年に、日産156万台で前年比2.9%増、トヨタ147万台で同14.3%増といずれも過去最高。ホンダは、主力車のリコールの影響で同1.7%減の143万台だが、19年1月は同月として過去最高を記録している。全体需要に対して、日系のJVは健闘している。中国の消費者の日独メーカーの品質に対する信頼は、いまだに高いといえる。

 東風汽車有限公司(日産・東風汽車集団のジョイントベンチャー企業)経営企画部の泉田金太郎氏は、次のようにいう。

 「日系メーカーは、現状は〝勝ち組〟です。しかし、中国の自動車市場は、とても厳しい。チャンスは大きい半面、デザインや先進技術の取り込みに後れをとると、とたんに〝古い〟と判断されて〝負け組〟に落ちてしまう。つねに最新の技術やデザインを入れていかなければ、中国の消費者は評価してくれません」

 実際、米フォードや仏PSA(旧プジョー・シトロエン・グループ)、韓国メーカーなどは、近年、シェアを落としている。かつて「地場メーカーよりマシ」という理由で選ばれてきた、これらブランドは、地場メーカーの品質向上に伴って〝負け組〟化した。

 また、地場メーカーのなかでも国有企業の上海五菱、長安汽車、長城汽車などは、地場の新興EVメーカーなどに押され、シェアを下げた。

 中国の地場メーカーは、150社とも、500社近いともいわれる。上海汽車、東風汽車、第一汽車、長安汽車、北京汽車、奇瑞汽車など国有大手に加え、近年は、BYD(比亜迪)、NIO(ニオ)、小鵬汽車など、新興民営のEVメーカーに勢いがある。

 もっとも、競争は激しく、〝勝ち組〟は上位10社程度に限られる。

実績を重ねる中国の地場メーカー

 日本企業は、中国製の商品について「品質が劣る」と考えがちだが、その見方は、いまや古い。

 ある調査によれば、地場メーカーのクルマの不具合件数は、07年の100台あたり306件から、17年に同112件まで減った。外資系とのJVの不具合件数は同99件だが、ここから、不具合の少ない日系JVを除くと、少し増える。つまり、地場メーカーの品質は、欧米系JVと同等といっていい。

 地場メーカーは、近年、着実に自動車生産の実績を重ねている。実際、上位の地場メーカーの生産規模は、年間、優に100万台を超える。量産効果によって多くを学んでいるのは間違いなく、日本メーカーにとっても、手強い競争相手になりつつある。

 新興EVメーカーは、米国の自動車メーカーなどで学んだ中国人が創業するケースが多い。彼らは、他社で学んだ技術者やデザイナーを引き抜き、

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