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榊原英資、久しぶりのニューヨーク

榊原英資 (財)インド経済研究所理事長、エコノミスト

shutterupeire/shutterstock.com

大きく変わりゆく世界経済をテーマに

 去る4月11日から14日まで久しぶりにニューヨークを訪れた。

 1年に1、2度は来ているので大きく変ったという印象はない。コロンビア大学教授でノーベル経済学賞の受賞者でもあるジョセフ・スティグリッツ教授が定期的に開催しているCGET(Commission on Global Economic Transformation)の会合に出席するためだ。

 CGETの座長はスティグリッツ教授だが、筆者もCGETの正式メンバーになっている。筆者の他にも、元ブラジルの大蔵大臣のネルソン・バルボザ教授(現在はブラジリア大学の経済学教授)、元ブンデスバンクのエコノミストのピーター・ボフィンジャー教授(現在はピルツバーク大学の金融政策及び国際経済担当の教授)、中国の銀行監督局のチーフ・アドバイザーのアンドリュー・シエン氏等が参加した会議だった。

 会議ではグロバリゼーションが進むなか、大きく変りゆく世界経済が中心的議題となった。旧体制が6つの局面で激しく変化しているという命題を中心に議論が進められた。以下の6つの問題が主として議論されたのだった。

(ⅰ)アメリカの一局支配構造が中国やインド等を含む多局構造に変わった
(ⅱ)世界経済の中心が次第にアジアに移ってきている
(ⅲ)女性の進出が顕著になっている
(ⅳ)世代間の格差(豊かな老人と失業に悩む若者)
(ⅴ)世界的温暖化現象
(ⅵ)旧体制を破戒しつつある問題を抱える技術進歩

 経済学では新古典派パラダイムが崩れ、新しいトレンドが追及されているが、かつてのパラダイムに変わる新しい命題はまだ出現していない。移行はかなりの混乱を伴いながら急速に進んでいるということなのだ。

 議論は白熱化し多岐にわたったが、新しいパラダイムがどんなものなのかは多くの人達にとって不透明なままだ。

 国際的にも、国内的にも格差が拡大する中でどういった政策が必要なのか、新しいマーシャル・プランが求められているのだが、世界は逆に保護主義が次第に拡大し、問題は複雑化してきている。

 アメリカでもヨーロッパでも、そしてアジアでも新しいナショナリズムが台頭しつつある。アメリカのトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策、イタリア等ヨーロッパ諸国のEU離れ、そして米中貿易摩擦に象徴される中国の覇権主義。世界は新しい秩序をさがしかね、分裂に向かいつつある気配なのだ。

 4月12日9時から17時半まで、様々な議論かわされたが、結論めいたものは出てこない。次第に拡大するカオスにどう対応するのか、新しいグローバルなプランが必要なのではないか等が論じあわれたが、必ずしも明確なパラダイムが出てきた訳ではなかった。

高校当時の米国と今の米国

 会議終了後、そして翌日の4月13日、ニューヨークを散策し、食事をしたが、久し振りのニューヨークの印象はむしろネガティブなものだった。

 筆者が始めて渡米したのは、今から60年前、1958~59年だった。アメリカン・フィールド・サービスという高校生の留学制度によって、ペンシルベニア州のヨーク市のアンダーソン家に1年お世話になったのだ。

 同じ高校3年生のジム・アンダーソン氏とともにヨーク高校に1年間通い卒業することができた。帰国して日比谷高校の2年生に戻ったのだが、大学はヨーク高校卒業の資格で入学したので、日比谷高校は卒業していない。

 高校で留学した時は、アメリカが輝いて見えた。

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