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佐野サービスエリアのストライキが問いかけるもの

「ブラック企業」と闘う労働現場の創意工夫

鈴木剛 全国コミュニティ・ユニオン連合会 会長/東京管理職ユニオン 執行委員長

訪れた人は売店の休業を知らせる貼り紙を見ていた=2019年8月14日、栃木県佐野市の佐野サービスエリア

 「日本の労働運動は衰退し、もはや労働組合は既得権益集団である」といったことが言われて久しい。

 この夏、私は「レイバーノーツ台北大会」に参加した。レイバーノーツとは、1979年にアメリカで創設され、出版活動やウェブ運営を行い、様々な労働問題に関するワークショップや労働学校を運営している運動体である(レイバーノーツのウェブサイト)。

 大会スローガンは、‟労働運動に運動を取り戻そう“であり、「職場での組織化、譲歩と闘う攻撃的な戦略、民主的で組合員中心の労働組合を広める」ことをめざしている。日本でも大きく経済構造や雇用関係・職場環境が変化している中、従来の企業別・男性正社員中心の労働組合からの転換が迫られているが、大会に参加し、レイバーノーツの挑戦は大きな意味を持っていると実感した。

 その大会の最中に、SNS上で「佐野サービスエリアのストライキ」が報じられた。

やむにやまれず立ち上がった佐野SAの労働者たち

 東北道の佐野サービスエリアで、盆の真っ最中である8月14日に従業員たちがストライキを起こした。8月11日の「FRIDAY DIGITAL」によると、佐野サービスエリアをNEXCO東日本から任されている株式会社ケイセイ・フーズ(岸敏夫社長)が倒産危機にあるという情報が流れ、一部業者が納品を中止する事態になったという。

 こうした中で、経営陣と交渉を続けていた総務部長の加藤正樹さんと支配人Iさんが不当に解雇された。しかし、多くの従業員がこれに反発し、解雇撤回と経営陣の退陣を求めて、ストライキに決起したのだという。

 詳細な経緯については、加藤さんが発信するSNS上の情報と加藤さんに取材した「文春オンライン」の記事(8/24、8/25)に詳しい。

 それらによると、長年労働者たちは、総支配人のT氏によるパワハラに苦しめられており、その音声データも報道されている。また、労働環境も劣悪で、クーラーも設置されていない厨房は40度を超す猛烈な暑さだったという。大手商社に勤めていた加藤さんが入社し、こうした問題の解決に向けて取り組む中で、現場の労働者たちの信頼を集め、また、それまで我慢して耐えていた労働者たちも立ち上がるようになったのである。

 一方で経営側には問題が多く、ケイセイ・フーズの親会社である片柳建設の経営が悪化の一途を辿り、2019年6月20日にメインバンクが新規融資凍結処分を下したとのことであった。7月20日に行われた労使交渉では、経営陣が融資凍結と返済滞納を認めたのである。その一方で幹部社員が会社経費で高級車を購入するなどの私物化問題も明らかになったようである。

 このときの差し迫った状況について加藤さんは以下のように発言している。

 「商品が搬入されないとなると、売り上げがたたない。このままでは従業員の給料が支払われないような事態にまで発展してしまう恐れがありました。そこで岸社長に対し、新たな事業計画を練って銀行から新規融資を取り付けてほしいと直談判したのです」(加藤さん)

 交渉を経て、8月5日、商品支払いの前倒しと労働者への賃金支払いを約束する覚書にサインした岸社長だったが、8月9日に翻意し、ついには8月14日の加藤さんらに対する不当な解雇に及んだものである。まさに、労働者の生活が懸かった緊急かつ重大な事態にあったのである。

 これに対して、やむにやまれずに団結し、全労働者の90%にあたる約50名がストライキを打ったのだ。先に紹介したレーバーノーツ台北大会に参加したアジア諸国の活動家たちの報告に通じる、職場の労働問題を解決するために、最前線で苦闘して働く労働者自身が創意工夫し、立ち上がったのである。(なお、本原稿執筆現在、佐野SAの労働者たちは、連合栃木の支援でストライキと団体交渉を継続しているという。)

プロ野球スト突入で、入場口の前に立つ警備員=2004年9月18日、神戸市須磨区のヤフーBBスタジアム(現ほっともっとフィールド神戸)

法律が先にあるのではない。運動が先にある

 この事件は、たちまちメディア上の話題となり、テレビのワイドショーでも報じられることになった。しかし、多くの当初報道は、上述したような労働現場の実態や経営状況を取材したものではなく、「盆の時期にストライキなど迷惑だ」という観光客の意見を流すものばかりであったようだ。ストライキに対して経営側が新たな人員を採用した“スト破り”についても、「これで佐野ラーメンがまた食べられます」といった観光客の感想を報じたものが多く、肝心の労働者たちが追い込まれている状況に迫った報道は少なかった。

 さらに、ストライキが報道された当初期に、元労働組合経験者と称する人物が、「ストライキは労働委員会に届け出なければならない」、「要求が適切がどうか労働委員会に意見を仰ぐべき」といった誤った情報を投稿した。ストライキにおいて労働委員会への通知が必要なのは、公共インフラや公共交通などの公益事業に限られるものである。

 また、「正式な組合か」といった形式にこだわる意見、組合が突きつけた経営陣に対する「退陣要求」が「経営専権事項」であるとして「組合は要求できない」といった誤った意見など、間違いだらけの情報ばかりであった。

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