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被害者のふり 関電のガバナンス崩壊

万全なはずの内部統制システムは形式ばかり。関電会見で実態が露見した

加藤裕則 朝日新聞記者

 「江戸時代の話か。時代錯誤も甚だしい」「あり得ない。東芝の不正会計も驚いたが、それを遥かに上回る」……。

 関西電力経営陣による金品受領問題は、弁護士や会計監査の大学教授らコーポレート・ガバナンス(企業統治)にたずさわる人たち大きな衝撃を与えた。落胆の余り、二の句が告げない人もいた。

 この十年余り、日本の企業統治は格段に向上してきたが、そのリーディングカンパニーに裏切られた形だ。まだまだ未解明な部分も多いが、日本を代表する企業の「ガバナンス崩壊」を追った。

元助役の横暴ぶりを強調した関電会見

 10月2日、大阪市福島区の堂島リバーフォーラムのホールには約200人の報道陣が詰めかけた。午後2時過ぎに八木誠会長(69)や岩根茂樹社長(66)が姿を見せると、ストロボがたかれ、シャッター音が響き、3時間以上にわたる会見が始まった。

 冒頭で岩根社長は陳謝。直後に5日前の9月27日の会見にふれた。

 「前回は個人情報に配慮した内容で、なぜこのような事態になったのかをしっかりとお伝えできず、疑念や不安を与えました。大変、反省しております。本日は報告書の内容を含めて、可能な限り、詳細に説明したいと思っております」

 前回、騒動の核心人物である福井県高浜町の森山栄治元助役(故人)の名前を出さず、「特定の人物」で通していた。受け取った金品や時期、状況についても一切口を閉ざした。社内処分を認めたが、その内容も伏せた。

 それが5日間で様変わりした。

 関電は、森山氏の横暴ぶりを明らかにすることを強調することで、世間の理解を得ようとした可能性がある。しかし、それは同時にコンプライアンス上の問題を浮かび上がらせることになった。

 岩根社長はまず、こう言った。

 「森山氏に関する問題では、長年にわたって、各人が我慢を重ねて対応してきたものであり、各人でなんとか対応していくしかないという引き継ぎ、助言を受けていた」

記者の質問を受けて資料を確認する、関西電力の八木誠会長(左)と岩根茂樹社長2=2019年10月2日、大阪市福島区

 会見場には2018年9月11日付の社内報告書も配布されていた。報告書には、森山氏は急に激高し、「無礼者」「わしにはむかうのか」などと長時間にわたり叱責・罵倒することが数多くあったと記されていた。「うつ病になった、左遷されたとの話が伝えられ……」と伝聞もあったが、金品受領の主因は森山氏側の強固な姿勢にあったことを指摘していた。

 これらの説明に対し、会見で記者からは「森山氏という特異なキャラクターのもとで、まるで関電が被害を受けたような印象だ」との指摘も出た。実際、翌日の新聞の朝刊では「言い訳に終始」「被害者の立場を強調」といった論調も目立った。

「預かっていた」は通用しない

 弁護士ら企業統治の専門家が問題視するのは、岩根社長の対応だ。

 2017年春、森山氏は関電本社を岩根の就任祝いに訪れた。10月2日の会見で岩根社長は「菓子折りのようなものが入った袋をいただいた。何か高価な物が入っているかもしれないと話を聞き、開封せずに秘書に渡したところ、お菓子の下から金貨が入っていた。そこで金庫に保管しておいてくれと言った。そのときもうしっかり対応すべきだった」と説明した。他の役員についても岩根社長は「預かっていた」「保管し、返すタイミングをうかがっていた」との説明を繰り返した。

 確かに返す努力はしていた。関電によると、受け取った金品のうち、4割にあたる1億2450万円分は、国税庁の調査が入る前に自主的に森山氏に返却していたという。だが、5割の1億5908万円分は税務調査を機に返還。スーツなど1割の3487万円分は今も返していない。

 企業統治に詳しい遠藤元一弁護士は「預かっていたという抗弁は、使っていなかったというだけであって、通用するものではない。会社法などいろんな意味で法律に問われる可能性が出てきている。もらった時点で返さなければいけない。いろんな方法があったはずで、受け取ることは常識の範囲外だ。少なくとも個人レベルでとどめてはいけなかった」と話した。

関電の記者会家の様子

 さらに専門家を落胆させたのは、関西電力というブランドだ。

 直近の売上高は3兆3千億円、従業員は約3万3千人。社外取締役が4人、社外監査役4人と監視体制は整っている。監査役室のスタッフは13人で、通常の上場企業は1~3人ほどで、他社に比べて格段に充実している。経営監査室もあり、社内と社外(弁護士事務所)の内部通報制度ももうけられ、内部統制システムは、万全な体制だった。

 それなのに1週間に2度の記者会見を余儀なくされたほか、当初は数十万円のスーツの仕立券を社会的に儀礼の範囲にするなど説明も二転三転した。金品受領の発覚も共同通信などマスコミの報道がきっかけだった。

 企業の内部統制などに詳しい松本祥尚・関西大学教授は「最初の記者会見での説明は虚偽で、世間を欺いたとの批判は免れない。悪いと分かっていたから、儀礼の範囲を拡大解釈するなどして社長や原発部門を守ろうとしたのだろう。公益事業を担っているという意識が低い。社内調査の報告書も社内役員が入る組織がまとめたもので、説得力はない」と手厳しい。

 岩根社長は会見で「コンプライアンス(法令遵守)にはふれていたが、違法性はないということで取締役会に説明しなかった」と繰り返した。これに対しても、「金品の受け渡しは重要な犯罪の可能性がある。取締役会への重要な報告事項だ」(企業法務に詳しい弁護士)との見方が支配的だ。

 監査役会にも報告があったという。

 監査役は取締役の業務執行の違法性や妥当性をチェックするのが仕事で、社長にモノを言うガバナンスの要とも言われる。日本監査役協会幹部は「監査役会は直ちに第三者による調査委員会を設けるように動くべきだ。そのうえで関係者の処分や公表を検討すべきケースだ。一体何をしていたのか」といぶかる。

甘すぎる処分

 処分の甘さにも驚きが広がっている。

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