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魅力の相関図から始まるサステナブルな地域づくり

連想ゲームで絵巻物をつくる。100年持つ地域のコンセプト作り知っていますか?

南雲朋美 地域ビジネスプロデューサー 慶應義塾大学・首都大学東京非常勤講師

 サステナブルな地域づくりのコンセプトはどう組み立てていったらいいのでしょうか?

 地域創生や地域活性化が叫ばれて久しいですが、税金のかけ方ばかりが注目され、地域住民が置き去りになってしまうことがあります。そもそも既視感がある地域の魅力が、どうやって地域ビジネスと結びついていくか分からない、という人も多いでしょう。個人の価値観に頼らないコンセプトづくりについて考えてみたいと思います。

Kichigin/shutterstock.com

論座セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」参加者募集中


地域が持つ魅力をどう引き出し、経済的な潤いを地域の中でどう循環させていくか――。スモールビジネスからスタートできる、地域ビジネス、地域プロデュースが注目されています。社会環境も、ライフシフト、ダブルワーク、テレワークと変わりつつあります。みなさんの眠っているチカラ、地域で活かしてみませんか?

「論座」では、セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」を開きます。山梨で「ワインツーリズム(R)」を始めた大木貴之さんと、有田焼の再生や星野リゾートの宿泊施設のプロデュースを行う南雲朋美さんからメソッドを学びましょう。

◆開催日時・場所
10月22日(祝日)17時30分~20時30分(17時開場)
朝日新聞東京本社 本館2階読者ホール(地下鉄大江戸線築地市場駅すぐ上)

◆定員・参加費
定員90人 参加費 3000円

◆申し込みや詳しい内容
Peatixの「論座」のページへ(ここをクリックしてください

「忍者」から地域の魅力をリサーチ

 みなさんが暮らす地域の中に、煤(すす)けていたり、色あせたり、わずかな片鱗しか残っていなかったりする「コト」や「モノ」はありませんか。

 そうだったとしても、何十年も前からあるものは、残るべき理由があると考えた方がいいと思います。そのわずかなきっかけから掘り進めていくと、大抵、なにかが埋まっています。埋まっているものを連想ゲームのようにつないでいくと、絵巻物が完成します。商品やサービスに物語を付け加えることはマーケティングとしてとても重要です。

 私が宿泊施設や自治体から依頼を受けて地域のコンセプトを作る場合、その土地の経済の成り立ちをみることから始めます。「土」「地形」「歴史」を読み解くと、表面には現れていない要素を見出すことができるからです。とても泥臭い作業ですが、根っこの部分から見ていくので、その延長線上にいる未来の人にも腹落ちしてもらえますし、100年後も成り立つコンセプトだと思っています。

Guayo Fuentes/shutterstock.com

 仕事の依頼で滋賀県甲賀市の担当者から「甲賀忍者の甲賀です」とあいさつされた時、心底ワクワクしました。何を隠そう、私自身が忍者の信ぴょう性について否定はできないが、定かではないと思っていたからです。日本を象徴するアイコンの一つ「忍者」をリサーチできるのは、地域で仕事をする醍醐味だと思いました。

 私は会議が行われる2日前に現地入りして、甲賀市の担当者に市内の案内をお願いました。他の参加者は京都や滋賀に住む識者で、東京在住は私だけ。現地を知らないのでは議論に参加できないからです。

 2日間で、茶農家、信楽焼の窯元、窯業センター、道の駅、美術館、博物館など、自治体の担当者が思いつく限りの現場を時間の範囲内で案内してもらいました。

地域を見渡せる高い山から考えよう

 地域をリサーチする時には、一帯を見渡せる高い山に案内してもらいます。高いところから見渡すと、平野がどのくらいあり、住宅がどのあたりに集中し、川や田んぼがどのくらいあるかがわかるからです。

甲賀市の山からの見晴らし=南雲さん提供

 写真には写っていませんが、写真を撮っている私の背後には三重県伊賀市があります。「伊賀忍者」の伊賀です。滋賀県甲賀市と三重県伊賀市は隣接しており、当時(今も?)、忍者はこの山一帯(鈴鹿山脈)にいたのです。

 余談ですが、甲賀忍者と伊賀忍者は敵対関係ではなく、協力関係にあったそうです。ただ、徳川と豊臣の対立関係がアニメや映画の世界に投影されてしまっているため、敵対するかのように描かれることが少なくないそうです。アニメの「忍者ハットリ君」でいえば、伊賀忍者は「ハットリ君」で、甲賀忍者といえば「ケムマキ君」です。

 写真をよく見ると、遠くに厚い雲が見えます。実は、この雲の下には、琵琶湖があるのです。湖や海などの大量の水は、雲を生み出すことにもつながります。山から一望した時、こうした想像ができれば、隠れていて目には見えない要素も見えてくるのです。

 このように地形を見ると、平面ではわからないリアルな情報が見えてきます。

土が作り出す価値

 土が黒くて握ったら固まるようなら、美味しいお米ができそうだとか、砂地で水はけがよさそうだと果樹園に向いているだろうといったイメージができるようになります。

 甲賀の土は、黒い土と白い土があり、場所によって違います。白っぽい土なら陶磁器を作ることができる陶石の可能性があり、陶磁器の産地が周辺にあることがイメージできます。

甲賀市の土=南雲さん提供
信楽焼=南雲さん提供

 写真の左が甲賀の土、右が甲賀の名産である信楽焼です。色合いが似ていることにも気づいていただけると思います。また、陶磁器の産地はお茶の産地であることが多いのです。

 陶磁器の「湯のみ」と茶葉から作られる「日本茶」は、機能や茶の文化と密接な関係があります。それだけではなく、陶石がある地層は、ミネラルが多く、茶樹の生育に適しています。山間であれば、良質な茶葉を育成するには欠かせない「霧」が発生します。

 滋賀県は「朝宮茶」「土山茶」「政所茶」といったお茶の名産地です。土は、その土地の経済を成立させる源(みなもと)であり、文化との関連性も見出すことができるのがおわかりいただけたでしょうか。

なぜ忍者がここにいたのか?

 一般的に忍者という「職業」は、裏と表の顔があり、甲賀忍者の場合は、表で「薬売り」などを営み、裏の仕事は「スパイ」や「傭兵」でした。

 忍者屋敷に行くと、手裏剣など武器のほかに「薬袋」がたくさん展示されています。彼らがかつて薬にまつわる仕事をしていた証拠になりますが、実は、滋賀県はいまでも製薬産業が盛んな地です。

忍者屋敷に展示してある薬袋=南雲さん提供
忍者屋敷に展示してある手裏剣=南雲さん提供

 忍者は日本各地にいましたが、甲賀忍者や伊賀忍者が忍者の代表格になっているのは、その存在価値を比較的長く認められてきた理由があったからでしょう。その理由は二つ考えられます。

 一つは、薬を生産できる土があったからです。これは琵琶湖のおかげでしょう。滋賀県は、湖の底に溜まった栄養価の高い腐葉土が琵琶湖の移動によって露出した地層と信楽焼の原料である磁石を含んだ地層があります。前者は有機物が豊富な土、後者はミネラルが豊富な土です。それゆえ、農作物はもとより、多種多様な薬草を育成できる恵まれた環境を築くことができたのです。現在は、その基礎部分に化学薬品が加わり、地域の産業として製薬業は根付いています。

 もう一つの理由は、滋賀県が、日本の中心に位置していることです。かつては中山道、東海道の交通の要所として発展し、今は名神、北陸、新名神の3本の高速道路が県内を通過しています。交通インフラに恵まれていることは、当時の忍者にとっても現代の製薬業にとっても、他の地域に比べて優位性があると言えます。

甲賀市にある東海道の土山宿=南雲さん提供

 かつて甲賀忍者は、薬売りとして街道を東へ西へと行き来していました。「薬売り」として西から大量に「傷薬」の発注を受ければ、「敵は戦の計画がある」と察知して東側に伝える「スパイ」としての役割も担っていた、という説があり、これは物語としてもなかなか説得力があると思います。

 実際に市内にある「くすり学習館」に行くと、黒ずくめの忍者ではなく、山や街道を駆け抜けていたためかスラリとした細マッチョな忍者の写真を見ることができます。

地域住民が納得するコンセプトづくり

 甲賀市の会議では、魅力について議論する時間とホワイトボードを用意してもらい、冒頭で説明した「土」「地形」「歴史」という軸で、要素を書き込んでいきました。すると、今まで、黙っていた金融機関の方が、身を乗り出して「俺の友だちの家は、薬屋だけど、実は忍者屋敷で隠し扉があった」と追加してくれました。薬草の話をすると大学で経営学を教える教授が「滋賀県は製薬業が盛んですよ」と付け加えてくれました。土が豊かな話をすると、農業のテーマパークを経営している方が、その理由を補足。話は盛り上がり、他にも「滋賀県は寺院が日本一多い」「檀家さんへの献金が負担になりつつある」とか、「滋賀県のお茶は京都の宇治茶としても売られていて、甲賀ブランドの構築が課題」という情報が次々と書き加えられていきました。

 こうして、全員が参加する形で魅力の相関図を作ることができました。その土地で生活している人たちならではの情報は、とても説得力があります。これに戦略を結びつけるとコンセプトが完成します。そうやって作り上げたコンセプトは、具現化する際、地域住民に納得してもらいやすいものになると思います。

 短期決戦の事業計画もありますが、持続可能にしたいと思うのであれば、長きにわたる先人たちによる知恵や経験の蓄積を尊重して、「土」「地形」「歴史」から読み解いていけば、10年後、20年後の担い手にも納得感がえられるコンセプトになっていくと思います。その延長で、100年保てるコンセプトを目指して構築できればと思います。

個人の価値観に寄らないために

 事業やブランドのコンセプトを作る際、最も重要な目的とすべきことは「組織内部の人が仕事をやりやすくする」ことだと思います。それが外向けの売り文句になることがあったとしても、組織全体で腹落ちすることによって、コンセプトからぶれずに商品作りやブランド構築ができるようになるからです。

 マーケットは生き物です。売れるためのコンセプトにしてしまうと、途中でトレンドではなくなったり、訴求ポイントがずれたりしてしまいます。そうした独りよがりの商品やブランドになってしまうと、共感が得られなくなる可能性があります。

 一方、コンセプトを「内部目的」のものと意識して構築すれば、組織内で別の立場の人それぞれが「コンセプトの具現化」を考えてくれます。例えばこんな感じです。

 「そのコンセプトを体験できるのはこの商品だ」
 「このパッケージだったらそのコンセプトを表現できる」
 「そのコンセプトにあった制服はこれ」
 「コンセプトイメージにあったWEBPAGEはこのスタイルで」
 「お客様の挨拶はこんな感じがコンセプトにあっている」

 こういったように、個人の価値観に寄らないで商品やブランドを作りあげることができます。

 地域のコンセプトを考える場合は、政策担当者だけではなく、その地域に住んでいる住民も腹落ちするコンセプトを考えたいものです。

参加者募集 論座セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」

地域が持つ魅力をどう引き出し、経済的な潤いを地域の中でどう循環させていくか――。スモールビジネスからスタートできる、地域ビジネス、地域プロデュースが注目されています。社会環境も、ライフシフト、ダブルワーク、テレワークと変わりつつあります。みなさんの眠っているチカラ、地域で活かしてみませんか?

「論座」では、セミナー「キーパーソンから学ぶ地域プロデュース」を開きます。山梨で「ワインツーリズム(R)」を始めた大木貴之さんと、有田焼の再生や星野リゾートの宿泊施設のプロデュースを行う南雲朋美さんからメソッドを学びましょう。

講師

南雲朋美さん
地域ビジネスプロデューサー、慶應義塾大学・首都大学非常勤講師。1969年、広島県生まれ。「ヒューレット・パッカード」の日本法人で業務企画とマーケティングに携わる。34歳で退社後、慶應義塾大学総合政策学部に入学し、在学中に書いた論文「10年後の日本の広告を考える」で電通広告論文賞を受賞。卒業後は星野リゾートで広報とブランディングを約8年間担う。2014年に退職後、地域ビジネスのプロデューサーとして、有田焼の窯元の経営再生やブランディング、肥前吉田焼の産地活性化に携わる。現在は滋賀県甲賀市の特区プロジェクト委員、星野リゾートの宿泊施設のコンセプト。メイキングを担うほか、慶應義塾大学で「パブリック・リレーションズ戦略」、首都大学東京で「コンセプト・メイキング」を教える。

大木貴之さん
LOCALSTANDARD株式会社代表、一般社団法人ワインツーリズム代表理事。1971年山梨県生まれ。マーケティング・コンサルタント会社を経て地元山梨へ。2000年に当時シャッター街だった山梨県甲府市に「FourHeartsCafe」を創業。この「場」に集まるイラストレーター、デザイナーや、ワイナリー、行政職員、民間による協働で「ワインツーリズムやまなし」(2013年グッドデザイン・地域づくりデザイン賞受賞)を立ち上げ、山梨にワインを飲む文化と、産地を散策する新たな消費行動を提唱。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学しワインツーリズムを研究。卒業後は、山形、岩手と展開。ワインに限らず地場産業をツーリズムとして編集し直し、地域の日常を持続可能にしていく取り組みを続ける。

セミナーの概要

第1部
南雲朋美さんの講演テーマ「地域の魅力の見つけ方」

地域の魅力を発見する方法とコンセプト化する考え方をお話しします。どんな地域でも、そこに人々が暮らしているのであれば、その経済を支える「何か」があります。それが魅力です。その魅力を人が納得できるコンセプトに昇華しますが、コンセプトはテーマと言ってもいいかもしれません。いずれにしても事業を行う上で、経営の礎(いしずえ)になる重要な概念です。厳しい競争の中で生き残ることができる核となる魅力を見つけましょう。

第2部
大木貴之さんの講演のテーマ「地域の日常をつないでつくるツーリズム」

地域を使ったコミュニティベースのツーリズムの手法をお話しします。たくさんの人が来ても、その消費が外に漏れてしまっては効果が薄れてしまいます。人が地域のキャパシティを越えてまでたくさん来ればいいというわけでもありません。地域のファンになってもらいリピートしてもらうその仕組みづくりのお話をします。新たな産業をつくるのではなく、既存の産業や地域のイメージを活用し、サービスからの視点で捉え、地域を次世代につないでいくヒントになればと思います。

第3部
パネルディスカッション
・南雲朋美さん
・大木貴之さん
・岩崎賢一(ファシリテーター)

※第3部終了後、講師との名刺交換もできます。

開催日時・場所

10月22日(祝日)17時30分~20時30分(17時開場)
朝日新聞東京本社 本館2階読者ホール(地下鉄大江戸線築地市場駅すぐ上)

チケット・定員

参加費 3000円、定員90人。申し込みが定員に達した時点で締め切ります。

申し込み方法

Peatixに設けられた「論座」のイベントページから参加申し込みをお願いします(ここをクリックするとページが開きます

主催
朝日新聞「論座」編集部