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人生100年時代の働き方のカギは「終身知創」だ

80歳まで現役で働かないといけない現実を前に個人と企業がとるべき道は

徳岡 晃一郎 多摩大学大学院教授・研究科長 株式会社ライフシフトCEO

marekuliasz/shutterstock.com

 人生100年時代がはじまっている。

 リンダ・グラットンは、2016年に出版され話題を呼んだ『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で、世界的な長寿化に伴って人びとの生き方が大きく変わると書いた。医療の進歩や健康への意識、食の改善などによって、現在60代前半の人は、50%の確率で90代前半まで生きるといわれる。いまや、人生100年を前提に人生戦略を考える「ライフシフト」はいよいよ現実味を帯びている。

80歳まで働かなくてはいけない時代

 高齢化社会が進むなかで、同時に進行しているのが少子化だ。少子化ゆえに年金の原資の積み立てが不足し、年金制度に頼れない高齢者世代がどんどんと出てくる。一時期、世間をにぎわせた「老後2000万円不足問題」だが、2000万円という額はともかく、年金だけでは暮らしていけないであろうことは、すでに常識である。人生の終わりが延びるにつれて、貯金は心もとなくなってくるし、高齢者の一人暮らしが増えて、社会から孤立するリスクも高まっていく。

 つまり、人生100年時代とは現役で80歳まで働き、社会とのつながりを保ち続けないといけない時代なのである。健康寿命を延ばし、生活費に困らない人生を送るためには、せめて80歳までは働かなくてはならない。実際、元気なお年寄りを見ると、それが可能な時代が到来していることを感じる。

揺れるサラリーマンと終身雇用を引きずる企業

 とはいえ、こうした現実を直視できている人はまだまだ少ない。

 大企業のサラリーマンには、「逃げ切りの50代」、「揺れる40代」、「不安な30代」という現象がみられる。改正高齢者雇用安定法によって、65歳まで働く権利を有する労働者だが、50代社員は65歳まで会社にしがみついて“それなりに”仕事をするモードだし、40代はそうした50代を見ながら、“それなりに”いけるのか、自らの人生をもっと積極的につくるべきなのか、揺れ、悩んだまま50代に突入。80歳まで働かざるを得ないことに気づいている30代はあと50年、どうやって稼げばいいのか想像がつかず、不安を抱えているのだ。

 かたや、企業は昭和の「終身雇用慣行」をいまだに引きずっている。65歳までの雇用はもちろんのこと、定年を延長している企業さえあり、社員を囲い込み、“安住の地”を与えている。雇用保障という昭和の優しさが漂う。

終身雇用というシステムからの決別を

 しかし、80歳まで現役で働かないといけない現実に照らしたとき、こうした現状には疑問を抱かざるを得ない。

 そもそも、デジタルを駆使したイノベーションが企業の競争力を左右するいまの時代において、40年以上もひとつの企業で働いている人が競争力アップに貢献し続けられるだろうか? 50代以上の社員が半数以上になるという大企業が10年後には続出するが、人事部はそのような高齢者を活用しきれるのだろうか? それでも社員を抱え続けることが、「人に優しい」というコーポレートブランド維持のためのコストとして許容できるだろうか?

 令和がはじまったいま、われわれは時代の変化を真剣に受け止めなくてはいけない。昭和・平成と続けてきた終身雇用というシステムを変革し、新しいシステムを構築しなければならない。

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「終身雇用」から「終身知創」へ

 高齢者が30%以上になり、地方の過疎化が急速に進む日本社会にあっても、企業がイノベーションを起こし、グローバル市場で勝負できる。別の言い方をすれば、高齢化と人口減少に直面しながらも、創造的な社会として、たとえゆっくりとではあっても発展し続ける。これからの日本に必要なのは、そんな社会だろう。

 それに適合するシステムとして考えられるのは、働く人たちが会社に拠らずに「自立」できるシステムだ。

 具体的には、一人ひとりが企業にしがみつくことをやめることから始めなければならない。そして、自分の人生を自分で拓く意志を持つことだ。そこでカギになるのが、「キャリア自律」と「人材の流動化」である。すなわち、社員は自身の成長を真剣に考える。企業は終身雇用ではなく、社員に対して、「終身にわたって成長し続ける意識」を持たせる場を用意するのである。

 筆者は、それを終身にわたる知の創造であると考え、「終身知創」と名付けている。それこそが、終身雇用に代わる新たなシステムである。

「人生三毛作」をベースに

 次に、その実現のための幾つかのポイントを挙げておこう。

 まずベースとしては、東京大学の柳川範之教授が提唱する「人生三毛作」のコンセプトが有意義だ。

 20~30代、30~50代、60~70代のそれぞれ20年を3回こなす働き方は、筆者の実感とも合致する。そのためには、

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