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小泉進次郎「化石賞」は期待の裏返し!?

「セクシー」な温暖化対策を。環境相として「カーボンプライシング」を打ち出せ!

山口智久 朝日新聞オピニオン編集長代理

波乱続きのCOPを盛り上げたグレタ

 温暖化対策を話し合う今年のCOPは、12月13日金曜日までの予定だった会期を延長し、15日午後までずれ込んだ。会期延長はいつものことだが、ここまでずれ込んだことはない。

 開催前から波乱含みのCOPだった。今回のCOPはブラジルで予定されていたが、昨年10月に温暖化に懐疑的なボルソナーロ大統領が当選し、1年前に開催を返上してしまった。そこで隣国のチリが引き受けたのだが、国内のデモが激しくなったために、今年10月末に同じく開催予定だったAPECと共に開催を断念。そこで、スペインが会場の提供を申し出てマドリード開催が急遽決まった。

COP25を率いた(左から)リベラ環境移行相(スペイン)、シュミット環境相(チリ)、エスピノサ国連気候変動枠組み条約事務局長=国連HPから
 COP議長は、そのままチリのカロリナ・シュミット環境相が務めた。会議のホスト役を担ったのは開催地スペインのテレサ・リベラ環境移行相。会議の事務方トップ、パトリシア・エスピノサは、メキシコの外務大臣だった2010年にカンクンであったCOP16で議長を務めた。偶然にも三人ともスペイン語圏の女性だ。

 今回のCOPは、細かいルールづくりが議題の中心だったので、本来はそれほど注目されるものではなかった。それが、グレタ・トゥンベリさんが一人で始めたデモが1年をかけて大きく成長したため、COPの注目度が高まった。会期中に米誌「タイム」がグレタさんを「今年の人」に選んだことで、さらに盛り上がった。

COP25で演説するグレタ・トゥンベリさん=国連HPから

 さらに、環境相が小泉進次郎氏だったために、日本メディアの報道量は例年よりも多かった。

石炭火力にあえて触れた小泉進次郎

 その小泉環境相の演説が批判された。国際NGO「気候行動ネットワーク(CAN)」は、石炭火力の削減策に踏み込まず、2030年の温室効果ガス排出量を13年比で26%削減するという目標をさらに深掘りすることを表明しなかったことで「化石賞」に選んだ。

 批判されたことについて小泉氏は、期待の裏返しだと語ったと報じられている。その通りだと思う。

 化石賞(Fossil of The Day、本日の化石)は、NGOからみて交渉を阻んでいる国や、地球温暖化対策に消極的とみなした国を選んで、COP会場の通路などで毎日のように発表する。厳密な基準はなく、効果的なタイミングをみて、その国を批判したら交渉や温暖化対策が前進するかもしれないという期待を込めて担当者たちが話し合って決めている。最近は、逆に頑張っている国を称えるRay of The Day(本日の光明)という賞も時々発表している。

 たかがNGOと思うなかれ。交渉を見守るNGOは、人材に乏しい途上国のアドバイザー役になっていることが多い。欧州では、政府とNGOの間を転職して行ったり来たりしている人もいる。博士号を取得しているスタッフも珍しくない。それなりに影響力がある。

 発表は糾弾調ではなく、仮装してジョークを交えながらなされる。長丁場の交渉では、ちょっとした笑いを提供してくれるアトラクションになっている。交渉官たちも、化石賞に選ばれたからと言って深刻に受け止めるわけでもない。アメリカやオーストラリアが常連で、昨年からはブラジルもよく受賞している。

 化石賞は、期待の裏返しなのだ。だから、アメリカやオーストラリアに比べたら、交渉ではあまり目立たない日本はそれほど受賞しない。期待されてないからだ。

 バッシングもされない、パッシング。

 ところが、小泉氏は演説で「COP25までに、石炭政策については、新たな展開を生むには至らなかった。しかし、これだけは言いたい。私自身を含め、今以上の行動が必要と考える者が日本で増え続けている」と述べた。石炭火力に対する批判についてまったく触れないこともできたのに、あえて言及したのだ。

 また、COP25に参加するにあたって、小泉氏は石炭火力の輸出を原則認めない方針を打ちだそうとしたが、経済産業省や官邸との調整がつかず見送ったことが報じられている。大臣が何かをやろうとして官邸につぶされたことが漏れ聞こえてくるのは、安倍政権下では珍しいことだ。

COP閉幕の全体会合で発言する小泉進次郎環境相=国連HPから

最後まで付き合い認知度上げる

 NGOは、小泉氏が日本メディアに注目されている有名政治家であり、日本国内で政策転換を図ろうとし、石炭問題を正面から受け止めたことを評価し、期待を込めて化石賞を与えたのだろう。

 小泉氏が受賞について「驚きはない。受賞理由を聞いて私が演説で発信した効果だと思った。的確に国際社会に発信できていると思う」という認識も、間違っているとは思えない。

 驚いたのは、COP閉幕の全体会合でも、小泉氏が発言したのだ。

 COP閉幕の全体会合は、交渉がいつも長引いていつ開かれるかわからないから、ほとんどの大臣たちは交渉官たちに任せて帰ってしまう。それを、最長となったCOP交渉に最後まで付き合い、発言までしたのだ。

 今回のCOPで合意に至らなかった「市場メカニズム」に関しての発言だった。この議題について日本として求める条件と、今後も議論に建設的に加わることを述べたあと、コロンビア大学仕込みの流暢な英語による約2分半の発言をこう締めくくった。

 「この交渉過程において、私は各国代表団とたくさんの会談をもちました。この場を借りてネバー・ギブ・アップの精神を共有してくれたことに感謝します。この場にどれくらいの大臣が残っているのかはわかりませんが、大臣や政治家として能力を発揮できるのは、自分たちのチームの貢献のおかげであることに同意いただけるでしょう。その意味で、私は私のチームと、あなたたちのチームに誇りをもっています」

 「私はもうすぐ日本に向けてマドリードを離れますが、最後の宿題が残ったままです。これで、楽しみができました。それは、あなたたちとまた仕事ができることです。グラスゴーでの次のCOPで会いましょう。ありがとうございました」

 発言が終わると、まばらではあるが、会場から拍手が起きた。これでCOP界での小泉環境相の認知度は高まっただろう。

「カーボンプライシング」を打ち出せ

 来年のCOP26でも環境大臣のポジションをキープできているかはわからないが、せっかく得られた期待に応えたい。

 石炭火力の削減策や削減目標の深掘りは、経済産業省を巻き込んでエネルギー基本計画を見直さなければならない。ところが基本計画は昨年7月に改定したばかりなので、ハードルは高い。

 環境相としてできるのは「カーボンプライシング(炭素の価格付け)」を打ち出すことだ。

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