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コロナ後は「所得再分配」と「格差是正」で内需拡大を

グローバリズムが逆回転。「失われた30年」を取り戻す千載一遇の好機だ

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 コロナ危機で、世界経済の推進役だったグローバリズムが逆回転している。

 国境は閉ざされ、人やモノの流れが止まった。ワクチンや治療薬が登場しても、次のパンデミックはいつ起きるのか、不安は尾を引き、脳裏に染み付いた記憶がこれからの世界経済に影響を与える。

 IMFは4月14日、日米欧は今年マイナス成長に沈み、大恐慌以来の惨事になると警告した。「コロナ後」を語るのはまだ早いと言われそうだ。

 しかし、いずれ終息する。日本が生き抜くための「コロナ後」の国の在り方を今から考えてみたい。

グローバリズムはパンデミックには脆弱

 グローバリズムは、金融規制の緩和やITの発展を追い風に、この20年で世界を覆いつくした。とりわけサプライチェーンは、技術を持つ先進国と人件費が安い途上国を結び付け、企業にとって国境はないに等しかった。

 しかし、わずか2か月で状況は一変。サプライチェーンは寸断され、自動車・エレクトロニクス、化学など世界展開する業種ほどダメージを受けた。

 日本では、内需不足を補ってくれるインバウンド需要が9割近く減少した。グローバリズムは平時には効率的だが、パンデミックの非常時には実にもろいのだ。

ImageFlow/Shutterstock.com

一国だけでも需給が回っていく「国民国家」

 いまどの国も他国との交流を閉ざし、それぞれの国民性や社会制度に応じた独自の防疫体制をとっている。国民は情報を共有し、一体感が強まって、無意識のうちに「国民国家」の様相を見せている。

 国民国家とは、一言で言えば「歴史的・文化的に民族の統一性を持つ国家」といえるだろう。ただ国同士の緊張や戦争に発展しやすいので、第二次大戦後はEUのような国家を超えた世界秩序の形成に努めてきた歴史がある。

 19世紀の遺物のように思われていた国民国家が、再びクローズアップされている。パンデミックの恐怖が去らない限り、グローバリズムへの全面依存に戻ることはできない。

 そこで今、一国で需要と供給がそれなりに回る経済運営が模索され始めている。

 そのような時代、日本経済の最大の課題は、コロナ危機により突如出現した巨大な内需の空白と、バブル崩壊以降30年も続いてきた慢性的な内需不足をいかに克服するかに集約される。

 コロナ後は、経済対策で膨張した国家債務の処理という非常に困難な問題が待ち受けているが、本稿では、公正な所得再分配と格差是正の実現を通して内需拡大を図るという、国政の基本的な在り方を考えたい。

低い労働分配率を高め、非正規雇用を正規にする

 具体的には、①近年低下が著しい労働分配率(下のグラフ)を高める、②拡大する非正規雇用をできるだけ正規に転換する、の2点である。

 ①の労働分配率は、企業が生み出した付加価値のうち、賃金など労働者が手にする割合を示す。この割合が高ければ労働者の賃金は高く、低ければ企業の取り分が大きいことを意味する。

 低い労働分配率も非正規雇用も、グローバリズムの国際競争から生じた産物だ。グローバリズムが逆回転する今、それらを巻き戻して社会の底上げと長期的な安定につなげるのが狙いである。

 労働分配率はかつて70%台で推移していたが、第二次安倍内閣が登場してからの9年間で66%まで急低下してしまった。その代わりに伸びたのが企業の内部留保である(下のグラフ)。

 蓄えた額は、安倍内閣の法人税率引下げも手伝って、10年前の約2倍にあたる463兆円という、GDP1年分に迫る規模に膨らんでいる。

 労働者よりも企業側に偏っている分配のアンバランスが問題なのである。

労働分配率の向上は少子化の流れも変える

 低い労働分配率は少子化の原因にもなっている。生活に余裕がない若い世代は子供を生みたくても出産をためらう。これについては当欄の『企業栄えて国滅ぶ。少子化の主犯はこれだ!』で考察した。

 したがって労働分配率を高めると、内需を増やすだけでなく、長期的に少子化の流れに変化を起こす効果も期待できる。

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