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コロナ不況から急回復した中国が目指す「双循環」による持続的成長

GDP回復に潜む懸念材料を払拭するため五中全会が打ち出した方針とは

武田淳 伊藤忠総研チーフエコノミスト

 10月末にかけて発表された米国およびユーロ圏の7~9月期GDPは、欧米経済が3月から4月にかけての新型コロナウイルス感染拡大による大幅な落ち込みから急回復したことを示した。米国のGDP成長率は4~6月期の前期比年率▲31.4%から7~9月期は+33.1%へ、ユーロ圏に至っては▲39.5%もの大幅マイナスから+61.1%へ急反発した。

 日本についても、11月中旬に発表されるGDP統計で、4~6月期の前期比年率▲28.1%から7~9月期に+20%程度持ち直したことが確認される見通しである。

主要先進国に先駆けて回復する中国経済

 これら主要先進地域より一足先に回復した中国のGDP成長率は、1~3月期の前年同期比▲6.8%から4~6月期に+3.2%へ急回復、7~9月期には+4.9%へ更に伸びを高めている。

 一見すると欧米に比べて勢いが無いようにも感じられるが、同じ「前年同期比」で比較すると、米国は1~3月期の+0.3%から4~6月期に▲9.0%へ落ち込み、7~9月期は▲2.9%と依然マイナス、ユーロ圏は1~3月期の▲3.3%から▲14.8%へ米国以上の落ち込みを見せ、急回復した7~9月期も▲4.3%にとどまった。日本は1~3月期の▲1.8%から米国と同程度の▲9.9%へ落ち込み、7~9月期は▲6%程度への回復にとどまったとみられる(弊社予測)。

 つまり、日米欧とも底を打ったのは中国より1四半期後、しかも落ち込みは中国より大きく、冒頭の通り足元で急回復したとはいえ未だ水面下である。こうしてみると、既に前年比のプラス幅を高める段階に至っている中国経済が、いかに順調な回復を示しているのかが分かる。

 中国経済の回復を牽引したのは、政府によるインフラ投資や金融緩和を追い風とした不動産投資の拡大である。元をただせば、昨年激しさを増した米国との貿易摩擦による影響を緩和するために打ち出された策の効果が、今年に入って本格化したに過ぎない。

 4~6月期には、鉄道や道路、電気ガス水道などの分野で固定資産投資が前年比二桁の伸びを記録、プラス成長に大きく貢献した。加えて、政府が銀行貸出の積極的な拡大を促したことにより不動産分野の投資も伸びを高め、建設業が活況を呈した。4~6月期以降は、海外経済の持ち直しを背景に輸出が回復、成長加速に貢献した。

上海で開催中の「中国国際輸入博覧会」の会場。多くの出展者やバイヤーらでにぎわっていた=2020年11月5日、宮嶋加菜子撮影

インフラ投資、銀行貸し出しは抑制

 しかしながら、政府支出の拡大や過度な金融緩和への依存は、既に問題視されている過剰債務の増大や不動産バブルの発生という弊害をもたらすため、持続力に欠ける。

 国際決済銀行(BIS)の統計によると、中国の政府と企業を合わせた債務残高は、GDP比で2019年10~12月期の203.5%から2020年1~3月期には217.3%へ急拡大し、過去最高(2017年1~3月期の205.7%)を更新した。分母となるGDPがコロナ・ショックによる景気の冷え込みで縮小した影響は小さくないが、債務残高も増勢を強めており、債務の過剰感は確実に強まっている。

 こうした状況を踏まえ政府は、景気の回復が明らかになるとともに、インフラ投資や銀行貸出の伸びを抑制する方向に舵を切りつつある。

輸出の先行きに暗雲

 また、インフラ投資に続いて景気回復を牽引した輸出にも、先行きに暗雲が漂い始めている。

 輸出の足取りを振り返ると、1~3月期に前年同期比▲13.3%もの大幅な落ち込みとなった後、4~6月期には+0.1%とほぼ前年並みを回復、7~9月期には+8.8%まで伸びを高めている(ドルベース)。その間、回復の主役は、4月頃の挽回輸出(コロナ・ショックで一時停止した輸出の再開)や日本向けのマスクなど衛生用品から、景気の復調が顕著な米国や東南アジア諸国連合(ASEAN)向けに移っている。

国際物流会社の倉庫には、輸出用の洋服やアクセサリーが入った「MADE IN CHINA」の段ボールが山積みになっていた=2020年5月15日、浙江省義烏、宮嶋加菜子撮影

 しかしながら、欧米では秋口から新型コロナの感染が急拡大、しかも米国ではコロナ対策より景気回復を優先するトランプ大統領から、コロナ感染抑制を公約とするバイデン前副大統領への政権交代が濃厚となったことも加わり、景気停滞の可能性が高まっている。牽引役だった米国向けが失速し、低迷を脱していない欧州向けが一段と落ち込めば、輸出による景気の押し上げも期待できない。

懸念材料が残る個人消費

 さらに、やや遅れて持ち直しつつある個人消費にも、懸念材料が残る。

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