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「アメリカの分裂」に挑むバイデン

榊原英資 (財)インド経済研究所理事長、エコノミスト

 既に1992年、アーサー・シュレシンガーが「アメリカの分裂」という著書を出版している。人種のルツボと言われ、民族的多様性を誇りにしてきたアメリカが分裂しようとしていると、ケネディーのブレインでもあった著名な歴史学者が警告したのだった。

 それから30年、アメリカの分裂はさらに深まって来たように思える。嘗て白人中心の国だったアメリカ(1960年、白人の割合は全体の85%)は、今や白人以外がマジョリティーになりつつある。2050年には白人は47%、ヒルパニック系29%、黒人系13%、アジア系9%、その他2%になると予測されている。

 そして、家庭で使われる言語は、英語以外の言葉か増加してきている。例えば、ロサンゼルスでは英語以外を使う家庭が60.5%、スペイン語を使用する家庭が43.8%と、英語のみを使用する家庭39.5%を上回っている。さすがに、フィラデルフィアやデトロイト、インディアナポリスなどでは英語のみを使用する家庭が8割前後だが、多様な人種を抱えるロサンゼルスやサンフランシスコでは英語以外を使用する家庭が多くなっている。(サンフランシスコでは英語以外の言語使用率44.2%、アジア太平洋語が25.3%)

Markus Mainka/Shutterstock.com

白人が少数派に転落する日

 2000年と2010年を比べると全人口の69.1%を占めていた白人が63.7%に減少しているのに対し、ヒスパニック系は12.5%から16.3%に増加している。 黒人は12.0%から12.2%へ、アジア系は3.6%から4.7%に増えているが、最も増加率が大きいのはヒスパニック系なのだ。ヒスパニック系出身国ではメキシコが63%、プエルトリコ9.2%、キューバ3.5%、エルサルバドル3.3%、ドミニカ共和国2.8%となっている。

 時代とともに、非白人、特にヒスパニック系が増加する傾向にある。2015年には全人口に占める白人の割合は61.7%、ヒスパニック系は17.8%だったが、2060年には、白人の比率は42.6%まで下がり、ヒスパニック系は30.6%迄増加すると予測されている。つまり、2060年には白人とヒスパニックの比率はかなり接近し、その比率は2015年の43.9%から71.7%迄上がってくるという訳なのだ。

 ヒスパニック系に黒人、アジア系などの他の非白人系を加えると、2060年には白人は全体の42.6%と少数派に転落することに為る。要するに2060年にはアメリカは最早アングロ・サクソン系の国ではなくなるという事だ。

 2010年の国勢調査では、まだ、アメリカ人の出身はドイツ系がトップで17.4%、アイルランド系11.6%、イングランド系が9.0%となっているが、既にアフリカ系が13.6%、メキシコ系が10.9%と白人の比率に迫ってきている。現在、スペイン語は2番目に使用されている言語になっており、3500万人の話者がおり、スペイン語の新聞、テレビ・ラジオ局なども多くなってきている。新聞では日刊26紙、週刊428紙、その他378紙の計832紙が発行されている。又、テレビについても、全米41局以上のスペイン語テレビ局があり、CNN,HBO, デイスカバリーチャンネル、ESPN等のケーブル局もスペイン語チャンネルを設けている。

バイデンはアメリカを一つにまとめられるか

 去る2021年1月20日、民主党のジョー・バイデン氏が第46代アメリカ大統領に就任した。新大統領の最大の課題はアメリカの分裂を回避し、「アメリカを一つにまとめて、立て直す」ことだが、多くの難問が待ち構えている。

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