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コロナ禍で進む学校の二極化 オンライン授業の遠い道のり

住田昌治・横浜市立日枝小学校校長が考える学校の現在地とこれから

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

 一斉休校や感染対策に追われてきた学校現場。新型コロナウイルス感染症は、学校運営にパラダイムシフトを起こしたのでしょうか? 実情を知りたくて、職員室のマネジメント改革を提唱してきた横浜市立日枝小学校の住田昌治校長を訪ねました。

 住田さんによると、学校では二極化が進む傾向が見られ、学校行事のスリム化でも揺り戻しが起きているそうです。加えて「家庭の経済的事情や福祉、医療のケアは、学校がからむことが難しい」と語る住田さんに、学校現場からみたコロナの「現在地」と「これから」について聞いてみました。

新型コロナ・キーパーソンに聞く・住田昌治さん

子どもの表情から垣間見える家庭の不安

 新型コロナウイルス感染症に関するインタビューから約1年2カ月が過ぎました。当時は、政府のリーダーシップによる全校休校という措置の最中でしたが、現在は一定の感染対策をしたうえで、小学校、中学校、高校では通学による授業を維持しています。3度目の緊急事態宣言を迎えている現在、学校現場はどうなっているのでしょうか?

――この1年、子どもたちの表情の変化で気づいたことがありますか?

 昨年6月に学校を再開した時は、マスクをして声を出すことも控えていたので、教室は静まりかえっていました。感情をあらわせない子どもが目につきました。人と人との関係をコロナ対策で、一度断ち切られたためです。

 少しずつ周囲に気をかけることができるように回復してきましたが、これには時間がかかります。人と人とのふれあいが子どもの成長に大切であることを、改めて実感しています。

 学校ではマスクを付けた生活が日常化しました。たとえば、この春に入学した1年生は最初からマスク生活です。マスクをしているので、子どもたちの表情がつかみにくいです。

 心配なのは、家庭環境の変化が子どもに与える影響です。コロナの影響で親が仕事を失ったり、自宅待機になったりしていると、子どもは不安を覚えます。親のもとを離れたくないという感情が生まれ、学校に通学しにくくなることもあります。あるいは、家族が家で過ごす時間が長くなったことで夫婦関係がこじれ、さびしい思いや不安を抱えている子どももいます。

 そのせいでしょうか、表情が暗い子どもたちが目につきます。とはいえ、こうした家庭の経済的事情や人間関係、福祉、医療といった側面からのケアに学校がからむことは難しいです。

やれる範囲の感染症対策はすべて実施

――学校再開後、どのような感染対策をしているのでしょうか?

 私たちの学校は市立学校なので、基本的には横浜市教育委員会の指示に従って対応しています。現在も毎朝、検温カードを確認し、忘れた子どもはその場で検温しています。幸い、クラスターが発生したことはありません。

 昨年6月の学校再開時に気をつけたことは、マスクの着用と何かに触ったら必ず手洗いをすることの徹底です。給食は黙って食べること、マスクをしていても長い会話はしないこと、といった指導をしていました。教室は本来のクラスの半分に分けて、午前と午後に授業をしていました。

 昨年7月からは通常登校に戻りました。5、6年生は体が大きいので、教室がいっぱいになってしまいます。そこで、窓を開け、いつでも風が流れるようにして授業をしています。

 集団登校を中止する、音楽の授業では歌を大きな声で歌わない、リコーダーを使わないといったりしたことなどは継続しています。やれる範囲の感染対策はすべてとってがんばるしかないのです。

新型コロナ・キーパーソンに聞く・住田昌治さん

――学校行事はどうなっているのでしょうか?

 4~6年生がそれぞれ実施する「宿泊体験学習」は、昨年度、予定されていた1学期の実施を見送りましたが、2学期に感染対策をしたうえで実施しました。子どもたちの一番の楽しみは、「みんなと一緒に泊まりたい」「自分たちが計画して色々なことをしてみたい」といったことです。旅行会社のプランに添って考えてきた従来の「宿泊体験学習」より、昨年度は子どもたちの意見を採り入れやすくなりました。

学校に届いたタブレットの開封はこれから

――感染を恐れて在宅で学んでいる子どもはいますか?

 基礎疾患があるなどの理由で、在宅で学んでいる子どもが数人います。こうした子どもには、教室の授業の一部をZOOMで流す対応をしています。

 しかし、これも常時、ZOOMで流すことには課題があります。教室の子どもたちにもプライバシーがあるからです。また、すべての授業の中継が、満足度が高い形で常時中継できるかというと難しい面があります。教室にいる教員は基本的に1人なので、タブレットのカメラの方向を、黒板、教員、子どもたちにと変えられません。こうしたことのクオリティーへの要望が高まるなら、撮影担当の人員を増やすしかありません。しかし多くの学校には余裕がありません。

新型コロナ・キーパーソンに聞く・住田昌治さん

――1年前、政府はコロナ禍での対応として、子どもたち1人1台のタブレット配布を前倒ししました。学校のデジタル化は進みましたか?

 地域差があるでしょう。1人1台という意味では、私たちの学校は横浜市から昨年度末までに全校児童分と教員分のタブレット「iPad」が到着しています。ただ、箱を開けていない状態です。タブレットを使うためのセッティングは、業者が順次学校を訪問して対応することになっており、それを待っています。工事をした高速wifiの運用も夏ごろになると思います。

 時々、ニュースでタブレットを使った遠隔授業をしている学校の様子が流れますが、モデル校や先進地域ではそのようなことができるのかもしれません。しかし、緊急事態宣言が出ている東京も大阪も、多くの学校では順次対応していっている状況だと思います。横浜市では、タブレットを自宅に持ち帰らないルールですので、各家庭と学校を結んでのオンライン授業は想定されていません。

教育扶助求める家庭が増加

――以前のインタビューでは「日枝小学校は、外国籍や外国にルーツがある子どもが多い」と話されていました。インクルージョン、ダイバーシティといった取り組みをされてきたと思いますが、コロナ禍で難しさを感じていることはありますか?

 全校児童約640人の2割強が外国籍や外国にルーツがある子どもです。コロナ禍で、中国に帰国してしまった子どももいますが、もともと日本で永住しようと考えている家庭が多いと思います。飲食店に勤務していた保護者も多く、コロナ禍による打撃が家庭に押し寄せている形です。生活保護の中に教育扶助がありますが、その手続きが増え、今年度から事務職員を1人から2人に増やしてもらいました。

新型コロナ・キーパーソンに聞く・住田昌治さん

――海外では、コロナに関連して差別や憎悪の問題が起きています。学校の現場では、どのように対応しているのでしょうか?

 私たちの学校では、私の知っている範囲ではそれはありません。背景として、子どもたちは幼いときから一緒に学び、暮らしているからだと思います。もともと多様な人々が暮らす環境があったからです。ただし、教室では担任の教員が細心の注意をしています。

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