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「入院制限」では感染爆発・医療崩壊の危機を突破できない

病床増設と接触削減に総力を

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

 新型コロナウイルスを甘く見る楽観論に染まって東京五輪開催を強行したあげく、感染爆発を止められなくなった菅政権は、8月2日の医療提供体制に関する関係閣僚会議で「入院制限」を打ち出した。重症患者や重症化リスクのある患者しか入院させないという苦肉の策だ。菅首相は、「必要な医療を国民に供給するため」と説明したが、これではまったく解決策にはならない。

「首相も都知事も、辞めた方がいい」

倉持仁・インターパーク倉持呼吸器内科院長=2020年3月29日、宇都宮市

 このままだと、医療崩壊のため自宅で命を落とす人々が増えるのは目に見えている。コロナと日々戦っている医師から、菅首相や小池都知事に辞任を求める意見が出て、テレビに流れたのも当然の成り行きだ。東京の一日当たり感染者は5日の発表でついに5000人を突破し、自宅療養者は1万4000人を超えた。もはや総力を挙げて病床を増やし、大胆な接触削減策を採ってワクチンと経口薬の普及まで耐えるしか道はない。専門家やメディアだけでなく、労働組合や経済団体も個人も沈黙を破り、国民の側から政権に要求を突き付けるべき深刻な段階である。

 「首相も都知事も、辞めた方がいい」

 8月3日のTBSテレビ「Nスタ」に出演し、政府も東京都も足並みをそろえて入院制限を打ち出したことにコメントを求められた倉持仁医師(宇都宮市「インターパーク倉持呼吸器内科」院長)は、次のように述べた。

 「言っていることがめちゃめちゃですし、このお二人(菅首相と小池都知事)がおっしゃっていることは、私が医療現場で聞いた限りでは、国民にまっとうな医療体制は供給しませんよ、というメッセージなんですね。ですから、こういう人たちに国を任せていては国民の命は守れませんから、お二人とも至急、お辞めになったほうがいいと思います」

 首相は、新たに承認した新療法(「抗体カクテル療法」)を幅広く活用すれば対策の切り札になるかのように語っている。これについて倉持医師は、新療法は入院患者しか対象にならないことを忘れている点で「めちゃめちゃ」であると怒りを露わにしたのだった。

 「国民のために働く」「命と健康を守る」「安心安全」などと繰り返してきた首相からは反省や謝罪の言葉もなしに「医療提供体制を機能させる」との詭弁が弄された。「撤退」を「転進」と呼んだ旧日本軍を連想させるような表現だ。デルタ株と呼ばれる変異ウイルスの感染力の強さと東京五輪強行開催に伴う接触機会の増加が重なることに関するリスク評価を誤り、その挙句に効果も疑わしい入院制限という措置に頼ろうというのだから、危機管理の失敗は明らかであり、不信任の声が上がるのも当然のことだろう。

与野党の批判浴び、修正すれど撤回せず

 2日の関係閣僚会議で菅首相は、次の通りメモを読み上げた。

 「重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院していただけるよう、必要な病床を確保します。それ以外の方は自宅での療養を基本とし、症状が悪くなればすぐに入院できる体制を整備します。パルスオキシメーターを配布し、身近な地域の診療所が、往診やオンライン診療などによって、丁寧に状況を把握できるようにします。そのため、往診の診療報酬を拡充します。家庭内感染のおそれがあるなどの事情がある方には、健康管理体制を強化したホテルを活用します。さらに、重症化リスクを7割減らす画期的な治療薬について、50代以上や基礎疾患のある方に積極的に投与し、在宅患者も含めた取組を進めます」

 首相は翌3日、日本医師会の中川俊男会長を官邸に招いて協力を要請した。これに対し中川氏は中等症でも医師の判断で入院できるようにすべきであると注文を付けるとともに、緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大するよう求めた。

 野党の立憲民主党は3日に枝野幸男代表が「今の政権にこれ以上危機管理をさせていたら、国民の命を守れない」と述べ、4日には「中等症患者も入院という従来の原則維持を」と田村憲久厚労相に申し入れた。

 自民党も4日に党本部で開いた新型コロナウイルス感染症対策本部とワクチン対策プロジェクトチームの合同会議で不満が噴出し、入院制限の撤回を求めることになった。

 首相はこれらを受けて「国民の命と健康を守るため必要な医療を受けられるようにする措置」と繰り返し、批判には丁寧に説明して理解を得ると述べた。また、最後は医師の判断に委ねるとしたが、入院制限そのものは撤回しな

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