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中学生たちが発見した地元の力と面白さ〜石破茂氏が語る地方創生への意思(下)

学校でこそ教えるべき「地元の魅力」

神山典士 ノンフィクション作家

東京一極集中は持続性がない〜石破茂氏が語る地方創生への意思(上)から続く

──石破さんが視察してこられた約400の自治体の中で、このコンテンツは宝だとか、このコンテンツは新しい産業になるとか、そういった実例はありましたか?

石破 よく言われる様に、島根県の海士町であるとか、成功例は沢山あります。けれど問題はそれが横展開しない。それをうちの町でもやってみようということにならない。さっきの小松製作所の坂根さんの例もそうなのですが、こんなに良い話だったら我々もやろうよとならない。何故なのでしょうか?

中学生と市役所職員とで作った「まち紹介動画」

──その一方で特定の企業や金融機関が「地方創生」をうたって、地域における再生計画を国の補助金をしこたまとってきてビジネス化するというケースもみられます。東日本大震災のあともコンサル会社やゼネコン主導で復興計画が立てられて、市民の意志とは違うまちづくりが行われたケースもありました。地方創生が「利権」で語られるのも問題ですね。

石破 私は宮崎県小林市の例をよくお話するのですが、小林市はメチャクチャ面白いまち紹介の動画を、まさに市民目線で作りました。「ンダモシタン小林」という動画で、今でもYouTubeで見られます。あまりにも面白いので市長にお伺いしたら、あの動画を作ったのは中学生と20代の小林市役所の職員なのだそうです。

宮崎県小林市 移住促進PRムービー "ンダモシタン小林"

中学生、高校生は受験勉強ばかりをしていて、受験問題には小林市や宮崎県の歴史やいいところなんて何にも出ないから、自分達の地元がどんなところなのかをほとんど知らないで育っていく。それで高校生や大学生になって出て行ったら、地元に帰ろうという気になる訳がない。だから小林市がどんなに素晴らしいところかを、中学生にこそ解って欲しかった、というんです。進学や就職のために東京や大阪に行くのはいい。けれどその中の何割かが、都会で勉強したことを地元の為に活かそうと考えてくれる、そのマインドが大事なんだと市長さんは仰っていました。

まさにそれだと思いますね。例えば我が鳥取県の高校入試に、「鳥取県はどうやったら良くなりますか?」という問題を出して欲しいと思うんです。地域が最大限にポテンシャルを活かしていくということが、これからの日本を救う唯一の道なのだ。そういう危機感、使命感を国が発信したとき、それに共鳴する首長がどれだけ居て、どれだけの自治体が知恵をしぼるか。そこがポイントです。

2015年に地方創生大臣を退任する時に、この事業の今後をどう思われますかと問われたので、「全国における取組の『点』は増えて密になったけれど、それがまだ『線』や『面』にはなっていない」と申し上げました。

「生活余力度」で最下位の東京

──とはいえコロナ禍で若者たちの地方志向は鮮明になってきています。2020年に就活のデータベースでもある「マイナビ」が調べた就活生、大学3年のアンケートでは、「できるなら地方で働きたい」という人が48.2%、「東京以外の都市」が32%、「東京」は19.7%です。東京以外を希望する若者が80%もいるのです。

だから若者達の方がむしろ、いくら頑張って勉強しても東京で就職した途端に家賃が高い、食費が高い、生活費全部が高いから残るお金が少ないとわかっている。

実際に「生活余力度調査」を見ると東京は最下位です。

石破 そうなんですよね。生活余力度で見ると1位が三重県。2位が富山県。3位が山形県。4位が茨城県で、鳥取県も何故かけっこう高めの第8位。(笑)

私もそのデータをよくご紹介するのですが、東京は所得額だと第一位だが、生活余力度は最下位、つまり実は暮らしにくい町なのだということがわかる。我が鳥取県は8位、つまり東京よりもはるかに住みやすいんです。地方自治体はこのことをもっと宣伝したほうがいいと思います。

兵庫県能座地区の休耕地解消の取り組みを視察する石破茂氏と地元の人々(2016年撮影、兵庫県養父市で)兵庫県能座地区の休耕地解消の取り組みを視察する石破茂氏と地元の人々(2016年撮影、兵庫県養父市で)

──若者達は生活実感として、東京や都会に出ていった先輩たちの様子を見て、解り始めているのです。都市生活の生きにくさを。いまやSNSがあって都会も田舎もお互いの生活ややっていることはリアルタイムで見られますから。がんばって無理して東京に行ってどういう生活が待っているか、故郷に残ったらどんな生活ができるか、一目瞭然なんですね。

石破 そうなんですよ。これもずっと前から言っているんですけど、例えば鳥取県で言えば、県立鳥取東高校、県立鳥取西高校、県立米子東高校などの名立たる進学校があります。ところが、個人情報の問題もあるのでしょうが、その卒業生名簿が更新されていないと聞きます。だから故郷の実情を卒業生たちに訴える術がないというのです。

都会へ出て、ある程度の年月が経って、故郷に帰りたいなあと思っているOBOGたちはそれなりにいると思うのです。若い人でも、40才50才でも、今の東京の会社にいてもあまり楽しくない、生活にも追われる、もう帰りたいなあと思っている人はいっぱい居るんです。一方で地方自治体も、IターンUターンで多様な働き手に帰って来て欲しいと思っている。お互いにニーズがあるのに、なかなかマッチできない。マッチングさせるビジネスも最近ようやく出てきたようですが、今後加速化していくことを願っています。

国民唱歌「ふるさと」の呪縛

──この国の人々の「ふるさと観」でいえば、歴史的に見て大正3年にできた国民唱歌の「ふるさと」という歌の存在が大きいと言われています。3番で、ふるさとは「志をはたして、いつの日にか帰らん」と歌われています。そのイメージが今日まで浸透してしまいました。

石破 その通りです。あれは大正3年に長野県出身の高野辰之という若者が、長野県師範学校を出て、長野県の教員になれと言われていたのに、東京にできた音楽学校(現、東京芸大)に入りたくて上京してきた、だから立身出世しないと国に帰れない、その事情を歌っている自分の歌なんです。ちなみに作曲者は鳥取市の人ですが、そういう歌が国民唱歌として広まってしまったから、「志を果たし終わらなければ故郷へ帰れない」という認識になってしまった面もあると思うんです。

「ふるさと」の歌詞を変えて、故郷に帰る歌に

ところが島根県の海士町では、もう何年も前からあの歌を替え歌でうたっています。「志をはたし『に」、いつの日にか帰らん」と歌う。だから20代30代の若者も「志をはたすために」海士町に戻ってくる。こういった、「故郷に帰ろう」という愛唱歌がほしいところですね。

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