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【対談】地方移住の受け皿となる自治体の実情は?(後編)

衆議院議員・務台俊介氏×長野県安曇野市長・太田寛氏

神山典士 ノンフィクション作家

 コロナ禍により「人口逆流時代」「人口分散型社会」の到来が言われる中、地方自治体の実態はどうなのか? 前編では、財政疲弊を理由に中央が考える政策に乗ってこない(乗れない)地方自治体の実情や、進学のために都会に出た若者をいかに早くふるさとに戻すか? 大正時代にできた「ふるさと」という文部省唱歌は「志を果すまでふるさとに帰るな」と歌っているが、もっと早く帰るための「ふるさと令和版」を考えたほうがいいのでは?と展開した。後編では、地方の仕事、賃金、住まい、そして「ふるさと投票制度」を語ってもらおう。

前編はこちらからお読みいただけます。

夕景北アルプスの稜線に沈む夕日に照らされ、k輝きを放つ水田。田植え前後の限られた時しか見られない=安曇野市提供

転職なき移住2拠点生活時代に

――移住や2拠点生活を考えている人にとって、地方に暮らすときはまず「仕事をどうするか?」が課題でした。ところがコロナ禍でリモートワークが取り入れられて、「転職なき移住2拠点生活」が現実のものとなってきました。とはいえ、地方の実態はどうですか?

長野県安曇野市長・太田寛氏 安曇野市では、実は人手不足で困っているんです。この前もとある企業を訊ねたら、技術者が欲しくてほしくてたまらない。募集すれば応募者は来てくれるけれど、マッチングが難しいという現実もあるそうです。今度は、精密機械大手のE社が松本の工場を閉鎖して安曇野の工場の従業員を大幅に増員しました。

衆議院議員・務台俊介氏 都会の人も気づき始めたと思いますが、給料にそんなに差がなければ故郷の方が絶対に住みよいわけですよ。自然環境に恵まれ、家賃も安いし生活費全体が安いんだから。

太田 長野県の駒ヶ根市にはJICA(国際協力機構)の外郭団体の本部が東京から移転してきました。そのオープニングに行って「ここでの暮らしは何がいいですか?」と聞いたら、「通勤時間が短い」と。東京では1時間半かかったのが、「ここでは車で5分です」と。それはやはり大きな魅力ですね。

海無し県で「みなさん、海釣りやりますか?」

務台 リモートワークできる企業もたくさんあるんだから、そういう会社を自治体が呼び寄せて、受け皿になる政策が求められますね。

太田 東京都三鷹市に本社があった大手電気会社も、本社の移転で2000人すべてが長野市に引っ越してきました。その時に私が言ったのは、「みなさん、海釣りやりますか?」。みなさんポカンとしていましたが、「金曜日の夜に仕事終えてから新潟に向かえば、1時間10分で海釣りができます」と言ったら、「なるほど」と納得されていました。長野県は山の中というイメージだけれど、こういう魅力もある。地方の魅力は都会から見ていたイメージとは違うものもありますね。

――確かに大企業の社員のままで田舎暮らしを始めたら、給料は変わらないし環境はよくなるから生活は豊かになります。

務台 問題は中小企業やパート、アルバイトで働く場合です。都会と地方で最低賃金水準が大きく違います。いま私たちは議員連盟までつくって、全国一律賃金にしようとがんばっています。最高は東京都の1041円、最低は800円台ですから。これでは若者も「東京に行くといい給料がもらえる、地方にいてはダメだ」と思うはずです。これだけ交通網が発達していて狭い国土なのに、一律賃金ではないというのがおかしいんです。ただ、いきなり一律にすると中小企業に大きな負担がかかるから、過渡期は公的支援をする必要はあると思います。

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