メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

防衛増税を「過小」に見せる、岸田首相のごまかし

必要なのは4兆円、選挙意識で真実を隠すな

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

 岸田首相は2022年末の記者会見で防衛費倍増に向けた「1兆円強」の増税を表明した。倍増がなぜ必要か、の説明もなく突き進む首相は、4兆円の財源が毎年度必要になるとしつつ、増税はその4分の1で済むと言う。増税に対する国民の反発を恐れる自民党内の声にも押され、増税を小さく見せようとして歳出改革などを誇張している疑いが濃厚である。

 国民の多くは、物価高に苦しむ中、世論調査で増税反対の意思を表明し始めている。2023年1月から始まる通常国会と春の統一地方選では、身の丈に合った防衛力整備のあり方とそれに必要な財源を根本から論じ合うことを通じて、政府方針が国民の置かれた現実にふさわしい内容に修正されてゆくことを期待したい。

世論調査、防衛費増は賛否拮抗、増税には反対

 国会前のデモはまだ大規模ではないが、2022年末に新聞社が実施した世論調査には、防衛費増額のための増税に対する国民の強い反発が噴き出した。

記者会見で防衛費の財源について話す岸田文雄首相=2022年12月16日、首相官邸
 朝日新聞が12月17、18の両日おこなった世論調査では、23年度から27年度までの5年間の防衛費の総額を「現行計画(22年度までの5年間)の1・5倍の計43兆円に増やす」政府方針について尋ねたところ、「賛成」46%、「反対」48%だった。

 毎日新聞が同時期に実施した全国世論調査では、「防衛費を大幅に増やす政府の方針」について聞いた結果、「賛成」48%が「反対」41%を上回った。また、読売新聞が12月2日から4日まで実施した世論調査で「これまでの5年間で総額約27兆5000億円だった防衛費を、今後5年間で総額40兆円を超える規模まで増やす方向」について尋ねた結果、「賛成」51%、「反対」42%だった。

 世論は、北朝鮮の核ミサイル開発や中国の軍拡で不安に陥り防衛力強化に賛成する意見と、日本の防衛費急増方針に疑問を抱き反対する意見に分裂しているようだ。

 その一方 、防衛費増額の財源としての増税に関しては反対派が圧倒的だ。

 朝日新聞の世論調査では、防衛費を増やすために約1兆円を増税することについては、「反対」と答えた人が66%で、「賛成」の29%を大きく上回った。増額のための国債発行には「反対」67%、「賛成」27%だった。

 毎日新聞の世論調査では、防衛費増額の財源を増税でまかなうことについて「反対」と答えた人が69%で、「賛成」の23%を大きく上回った。防衛財源捻出のために社会保障費などほかの政策経費を削ることについては「反対」が73%で、「賛成」の20%を大幅に上回った。国債発行も「反対」が52%で、「賛成」は33%だった。

 読売新聞の世論調査では、防衛費増額に賛成と答えた人にその主な財源について聞いたところ、「国債の発行」38%、「社会保障費など他の予算の削減」30%、「増税」27%だった。

 これらの調査結果を見る限り、物価高で苦しむ国民の間では、防衛費増額に賛成の場合も、増税は受け入れられないと考えている人が多いようだ。増税規模は1兆円強と聞いて増税に賛成の人も、いずれ実際の国民負担がもっと大きいものになると知れば、「話が違う」と怒り出しかねない。

追加で必要な4兆円、「4分の3確保の道筋」への疑問

 日本の防衛予算は国内総生産(GDP)の1%ほどの5兆円台で推移してきたが、それを5年かけて増やし2027年度以降は2%台にするという倍増方針を岸田政権は打ち出している。12月8日に官邸で与党幹部と政策懇談会を開いた席上、首相は「27年度には防衛費とそれを補完する取り組みを合わせ、現在のGDPの2%に達するよう予算措置を講じる」と表明し、それには27年度以降は毎年度約4兆円の追加財源が必要だと説明した。

 4兆円の4分の3は歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設などでまかなうとし、「残りの約4分の1の約1兆円強については、国民の税制で協力をお願いしなければならない」と述べたのだった。

 12月16日の閣議後の記者会見で首相は、1兆円強の増税の中身は法人税と所得税、たばこ税の増税となることを明らかにするとともに、新たに必要となる財源の多くは増税以外の方法によって賄うとの方針を次のように繰り返した。

 5年間かけて強化する防衛力は、令和9年度(2027年度)以降も将来に向かって維持・強化していかなければなりません。そのためには、裏付けとなる毎年度約4兆円の安定した財源が不可欠です。(中略)安定的な財源として、財務大臣に対し、まずは歳出削減、剰余金、税外収入の活用など、ありとあらゆる努力、検討を行うよう厳命をいたしました。結果として、必要となる財源の約4分の3は歳出改革等の努力で賄う道筋ができました。

防衛費の財源について説明した記者会見での岸田文雄首相=2022年12月16日、首相官邸

 しかし、この説明はおかしい。税以外はいずれも安定的な恒久財源ではなく、毎年決まった額が確保できるわけでもない。一時的な財源だ。2026年度まではなんとかなるかもしれないが、27年度以降もそのやり方で財源が確保できる保証などない。改革等で賄う道筋ができたというなら、なぜ胸を張ってそれを具体的に説明しなかったのか。

持続性のない「かき集め」を財源に見せるごまかし

 首相は財務大臣に対して歳出削減、剰余金、税外収入の活用など、ありとあらゆる努力、検討を厳命したというが、それで毎年何兆円ものお金が安定的に確保できるなら、話は簡単だ。しかしそういうやり方は、2009年にできた民主党政権が「増税しなくても、むだな歳出を削減する改革で財源を確保できる」と公約して果たせず、結局は自民、公明との3党合意で消費増税に道を開いていった経緯を思い出させる。

・・・ログインして読む
(残り:約2752文字/本文:約5185文字)