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世界の食料安全保障に日本が貢献できること

途上国の貧困解決への支援と米の輸出を G7サミットへの提言

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 2023年、日本はG7サミットを主催する。ロシアのウクライナ侵攻を大きな原因として穀物価格が高騰し、中東やアフリカなどの途上国が食料危機に苦しんでいる。こうした中で、食料安全保障がサミットの大きな議題となる。すでにいくつかのG7構成国の在京大使館から私の意見を聴きたいという申し出がなされている。本稿では、日本自身が世界の食料安全保障に貢献する途を検討したい。

洞爺湖サミット洞爺湖サミットのワーキングセッションで円卓に着席した首脳たち=2008年7月

 サミット開催国として、日本は“食料安全保障”に縁がある。2008年にも世界、とりわけ途上国は食料危機に見舞われた。日本が議長国となった北海道・洞爺湖サミットでは、食料安全保障が主要な議題となった。この原因となったのは、アメリカが、トウモロコシをガソリンの代替品であるエタノール生産に大量に振り向けるという政策を実施したことだった。トウモロコシは食用や飼料用だけでなく、エネルギーの原料にもなった。これによって、穀物需要が拡大したことから、世界の穀物価格はおよそ3倍に上昇し、輸入米の価格が高騰したフィリピンなどでは飢餓が生じた。アメリカは世界から批判された。しかし、価格高騰で農家が好況に沸いたアメリカのブッシュ政権は、政策変更に応じようとはしなかった。アメリカは、途上国の飢餓よりも農業票の獲得を優先したのである。

 なお、本稿では、食料のうち主に穀物と大豆を取り上げる。これらは人に対して主要なカロリー源であるうえ、家畜のエサとなって間接的に牛乳や食肉などの畜産物を供給してくれる重要な農産物だからである(ただし、米のエサ用仕向けは少ない)。穀物のうち、生産量・消費量が多いのは、米、小麦、トウモロコシであり、これらを3大穀物と呼ぶ。また以下では、“油糧種子”に分類される大豆を含めて「穀物」という。

戦争や紛争が食料入手を妨げる

 食料危機には二つの場合がある。

ロシア側が配った食料や水を抱えて歩くウクライナ南東部マリウポリの住人=ロシア国営テレビの映像から 2022年4月17日ロシア側が配った食料や水を抱えて歩くマリウポリの住人=ロシア国営テレビの映像から、2022年4月

 一つ目の食料危機は、物理的に食料にアクセスできない場合である。ロシアに包囲され陥落したマリウポリでは、ウクライナ政府や赤十字からの食料が市民に届かなくて、飢餓が生じた。東日本大震災でも地震発生後しばらくは食料が被災地に届かなかった。

 途上国では、穀物価格が高騰していなくても、エチオピア北部の内戦のように紛争が発生することで、食料を物理的に入手できなくなる事態がしばしば生じる。また、輸送インフラが整備されていなければ、外国からの援助物資が港についても、奥地の村まで届かない。

 アメリカ、オーストラリア、EUなど、輸出国で政情が安定している国では、東日本大震災のように災害などで局所的に輸送網が寸断される場合を除き、このような危機は起きない。これに対して、先進国でも食料の過半を輸入に依存している日本のような国では、台湾有事などでシーレーンが破壊され、輸入が途絶すると、国全体に大変な食料危機が起きる。

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