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三菱ジェット挫折で見えた「モノづくり日本」の実像

90年代の半導体敗戦、EV開発にも共通する情報収集力の低さ

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 三菱重工は社運をかけた国産初のジェット旅客機スペースジェット(SJ、旧MRJ)の開発を断念すると発表した。世界の空を飛ぶには米連邦航空局(FAA)の型式証明を取らねばならないが、その知識、経験ともに不十分だった。

 モノづくりで勝負する日本にとって、世界の潮流や表に出ない情報を収集・分析することは欠かせない。その視点から、三菱SJ、ホンダジェット、1990年代の半導体敗戦をめぐる衝撃の新説、出遅れが目立つEV(電気自動車)を考えてみたい。

試験飛行に向け離陸したスペースジェット=2020年3月18日午後2時51分、愛知県豊山町の県営名古屋空港、上田潤撮影試験飛行に向け離陸するスペースジェット=2020年3月18日、愛知県豊山町の県営名古屋空港

最新エンジンで空を駆けるはずだった

 三菱重工がMRJ開発に乗り出した2008年、日本の航空機メーカー、エアライン、研究者、行政担当者ら約100人の航空関係者が内輪で集まる会合が開かれた。筆者も航空工学を学んだ縁で参加した。

 まず三菱重工の幹部がMRJ開発の要点を説明した。

(イ)ボーイングやエアバスとの競合をさけるため小型旅客機(70~90席)を開発する。
(ロ)その分野の世界需要は拡大しており大量受注が見込める。
(ハ)米P&W社の最新型ターボファンエンジンを搭載し、ライバルのエンブラエル社(ブラジル)より先に就航させる。

 戦前にゼロ戦、紫電改など多くの軍用機を開発し、米独英と並ぶ航空大国だった日本。その復活が実現するかのような期待に会場は包まれた。

国交省担当者の発言で会場は凍り付いた

 すると、日本の型式証明を管轄する国交省航空局の担当者が登壇してこう発言した。

 「意欲は評価するが、世界の空を飛ぶには米国の型式証明を取らねばならない。それは容易なことではない。飛べばいいではすまない。さらに世界のどんな場所で事故が起きても即時対応して専門チームを派遣し、原因究明や就航中の同型機への対策を考える組織やシステムが必要になる。そこまでの心構えはできているのだろうか」

 型式証明を取るには構造・強度・性能・安全性・騒音・エンジン排出物などの基準をクリアしなければならない。三菱重工が最先端エンジンや設計手法の新技術をアピールしたのに対し、行政側が世界視点から難易度の高さを指摘したのだ

 両者の認識ギャップは明らかで、会場は一瞬凍り付いた。同社幹部は「石にかじりついてもやるしかない」と言葉少なに語った。

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