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ベネチア映画祭新人賞『ヒミズ』は、「がんばれ、日本」への違和感

大西若人 朝日新聞編集委員(美術)

●もし金獅子賞だったら…… 

 ベネチア国際映画祭で、主演の二人がマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)を受けた園子温(その・しおん)監督の『ヒミズ』。受賞決定から10日ほどたって思うのは、これがもし最高賞の金獅子賞だったら、どういう記事を書けばよかったのだろうか、ということだ。

ベネチア国際映画祭で『ヒミズ』の公式上映を終えた園子温監督(中央)、主役の染谷将太(右)、二階堂ふみ

 近年の新聞各紙なら、ベネチアやカンヌ、ベルリンの三大映画祭で日本映画が最高賞やそれに近い賞を受ければ、1面で大きく報じるのが通例だ。そして、日本の才能、映画のレベルの高さが評価された、というトーンになることが多い。

 『ヒミズ』をどう語るか。受賞後の各紙の書きぶりをまとめると、「震災後に脚本が書き換えられ、宮城県石巻市でも撮影。震災後の日本を舞台に、親たちから踏みにじられ、もがきながらも、強く生きようとする15歳の男女の青春映画」といったことになるだろう。

 これは、全く正しい。正しいけれど、試写を見たときからずっと「素晴らしい映画で、誰もが感動する」と書けない、と感じてきた。15歳の中学生の二人の「踏みにじられ方」は尋常ではない。園監督の『冷たい熱帯魚』ほど殺戮シーンがあるわけではないが、殺人はあるし、暴力的な描写も数知れず。ベネチアでの公式上映の後の会見でも、この点が問われたという。結末は古谷実の原作漫画よりは救いがあるとはいえ、万人受けする訳がない、というか嫌悪感を覚える人も多いだろう。

 そして、被災者の描き方も、そう多くの人が納得するものではないだろう。実際に被災した人たちが見たらどう思うか、ちょっと想像が難しいほどだ。

『ヒミズ』(住田祐一役で主演した染谷将太)

 ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞を受けた『千と千尋の神隠し』のようなケースとは違うのだ。

 私自身、『ヒミズ』は大好きな映画ではない。でも、

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