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会社更生法を経た出版社「筑摩書房」の内側

鷲尾賢也 鷲尾賢也(評論家)

 編集者の回顧、とりわけ文芸編集者の回想は、付き合ってきた相手が作家ということもあって、驚くほど多く刊行されている。また、野間清治、岩波茂雄、古田晁、山本實彦、角川源義、下中弥三郎など、出版創業者の伝記も少なくない。

 しかし、営業関係ではどうであろうか。内側の話だけに、一般書としてはあまり興味を惹かないせいもあって、ほとんど刊行されていない(私が知らないだけかもしれないという一抹の不安はあるが)。

 小田光雄を聞き手とした『営業と経営から見た筑摩書房』(論創社)は、現在会長である菊池明郎が、内部から筑摩書房の過去・現在を率直に語った興味深い一冊である。

筑摩書房取締役営業部長のときの菊池明郎さん=1993年

 筑摩書房の培ったイメージは古田晁という理想主義の創業者を抜きには語れない。創業70年記念で復刊された和田芳恵『筑摩書房の三十年 1940−1970』(筑摩選書)に、エピソードを含めそれらはたっぷりと記述されている。

 古田を中心とする唐木順三、臼井吉見などの友情、雑誌「展望」、あるいは数々の個人全集や著作集……、筑摩書房はいわば良書の代表のような出版社であった。ところが、1978年7月12日、会社更生法を申請する羽目になる。世間的には突然だったようだが、「我々営業にいた人間からすれば、自転車操業的資金繰りに陥っていたことは前から明らかでした。だから会社更生法で立て直すしかないと考えていたので、とうとうその時がやってきたと思いました」と菊池は回想する。

 当時の編集の仕事ぶりにもこういう。

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