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話題のない・話題をつくれない出版界

鷲尾賢也 鷲尾賢也(評論家)

 2013年が始まっても、出版界に明るいニュースが見あたらない。

 せいぜい、75歳の芥川賞作家の出現ぐらいだろう。だが、正直言って『abさんご』(文藝春秋)が、それほど数多くの読者を獲得しているとは思えない(店頭での印象)。

 「最初は行きつ戻りつで時間ばかり取られて苛立つだろうが、おそらく後半では最初の数倍のスピードで読み進むことができるだろう」とか、「自分も入り口では戸惑い、しかし少し我慢して読むうちに、小説世界が瑞々しく眼前にたちあがる」という選評に、ふつうの読者はそれほど我慢できないよと、つい反論してみたくなる。

 友人の文芸記者は、三度読んで、ようやく何となく分かったといっていた。自分もそうだったが、通読するのにかなり時間がかかる。

 『abさんご』一冊に、過重な期待をかけるほうがおかしいのだが、それにしても書店の落胆ぶりは目に浮かぶ。だからこそ、まもなく刊行される村上春樹の新作が待たれるのだろう。

 話題のないなかでは、2012年の「アマゾン」の日本での売り上げが7300億円だったということがはじめて発表され、予想されたとはいえ、その数字にあらためて関係者は驚いている。「ジャパネットたかた」などよりもずっと大きく、通販最大手だということが判明した。編集者すら、「アマゾン」を利用しているものが多い。それほど、既存の書は魅力を失くしているのである。

 そういうこともあるのだろうか、廃業する書店が全国で跡をたたない。一方で、新規開店は減りつつある。ということは、書籍・雑誌にふれる機会がいっそう奪われているということになる。書店のなくなった地方の読者は悲惨だ。そこに「アマゾン」が入り込む。しかし、インターネットを使えない読者だっている。つまり読書格差はますます拡大するということになる。

 流通を担う東販・日版という大手取次も、自分の数字をつくるのに汲々として、この現状に何ら手を打てていない。出版は産業でもあり、同時に文化でもある。個別の利害も大事であるが、出版界全体でどうするか考える時期に来ている。しかも悠長なことは言っていられないほど差し迫っている。

 出版・編集側の

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