メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

[6]今でも苦しみ続けるアトピー性皮膚炎患者

牛山美穂 大妻女子大学准教授(文化人類学、医療人類学)

 しかし結局のところ、ステロイド外用薬を塗っていてもアトピー性皮膚炎は治るわけでもなく、アトピー性皮膚炎は相変わらず患者を苦しめ続けている。アトピー性皮膚炎の話題は収束する傾向にあるが、かといってこれで苦しんでいる人の数が減ったかといえば、必ずしもそうとは言えない。

 筆者は2006年から2013年まで、日本とイギリスにおける成人アトピー性皮膚炎患者合計44人の聞き取り調査を行ったが、症状が重く仕事が継続できなかったり、結婚を諦めたりといった、非常に大変な話を数多く聴くこととなった。

 アトピー性皮膚炎患者のほとんどは、小児、幼児で、多くの場合は年齢を経るごとに症状が軽快していく。ただし、成人になっても症状が治まらない人や、成人になってから症状が出てくる人もいる。そのなかにはステロイド外用薬を塗っても症状が抑えられず、症状のあまりの酷さのために学校や仕事に行くことすらままならず、社会生活からドロップアウトしてしまう人も一定数存在するのである。

 そして、一見下火になったように見える「アトピービジネス」も実は消え去ったわけではなく、アトピー性皮膚炎患者向けのマーケットはしっかりと残っているように感じられる。

 1990年代に「アトピービジネス」が跋扈した背景として、ステロイド外用薬の副作用が世に知られるようになったと述べたが、そのせいで始まったステロイドバッシングが2000年代に入って収束してくるのと同時に、ステロイドバッシングに乗じて売り上げを上げてきたアトピービジネスも、確かにずいぶん減ったといえる。

 ただ、近年でもステロイドバッシングとは関係のない文脈で、やはりアトピー性皮膚炎患者を意識したマーケットはあり、やはり病気と民間のマーケットの結びつきという点はずっと変わらずにある。

マーケットになじむ病気となじまない病気

 ここで、そもそもなぜアトピー性皮膚炎がマーケットに親和性の高い病気なのかということを説明しておこう。

・・・ログインして読む
(残り:約844文字/本文:約1670文字)