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アマゾンを恐れることはない(下)――電子書籍化の潮流を押し返せ

福嶋聡 MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

 アマゾンが電子書籍にこだわる理由は、ここにある。

 電子書籍なら、在庫の問題は発生しない。倉庫も不要である。それに加えて、日本でも、電子書籍に関して再販売価格維持契約を結ぶことはできないから、アマゾンは、得意の値引き戦略を、出版社の意向には関係なく、大手を振って行うことができる。

 更に、電子書籍は、販売元が倒産・経営統合などの理由で存在しなくなった場合、「買った」はずの読者の手から消えてなくなり、ある時突然読めなくなるリスクが高いため、購入先は、勝ち残りそうな販売元に集中していく。

 損をしてでもライバルを蹴落とし、あるいは囲い込んで「一人勝ち」し、圧倒的な市場支配力を手にするという、ここまで躍進してきた図式を継続しやすい、アマゾンにとっては魅力的この上ない商材なのである。

 アマゾンでキンドル開発に携わったジェイソン・マーコスキーは、「アマゾンは、グーテンベルクのプロジェクトを、IT技術の力を借りて現代に蘇らせようとしているのだ」と言う。

 読書熱は年々低下していて、このままで行けば、いずれ紙の本の絶滅が始まる、だから、電子書籍の普及によって、読者に本の魅力を見直させ、読書熱を再燃させなければならない。アマゾンのキンドルは、崇高にして壮大なミッションである。

 しかし、「紙の本が喫茶コーナーの窓辺を飾る装飾品の一種に成り下がり、本を読む人が少なくなったとしても、この先電子書籍が普及していけば、人びとは必ず読書の世界に戻ってくるはずだ」と言う根拠は良くわからないし、「プロジェクト開始からの5年間でキンドルは想像以上の成果を上げ、売上げや知名度が高まったのはもちろん、読書そのものを変えてみせた。世界を変えようという私たちの目標は、達成されたと言える」という伝道者の勝利宣言にも、にわかには首肯できない。

 一方、マーコスキーは、電子書籍の問題点も正確に見つめている。

 「電子書籍は、質感や手触りの点では紙の本に遠く及ばない」「紙の本の具体性には、作者の考え方や物語の重厚さを効果的に伝えることが出来る」「電子書籍には、紙の本のように素早く最後のページをめくることが出来ないという欠点もある」と正直に言う。

 慌てて、「電子書籍が紙の本に完全に劣るかと言うと、もちろんそんなことはない。電子書籍の特に大きなメリットの一つは、読んだ本を保管して整理できる点だ」とフォローしようとするが、そのフォローも、むしろ紙の本の優位性を際立たせてしまっている。いま限りなく紙の本に近づこうとする電子書籍の開発者は、紙の本をよく知り、時に限りない愛好者でなくてはならないからだ。

 ここまでは好き嫌いの問題で済むかもしれないが、次のような証言は、紙の本→電子書籍という今や多数が必然的と思っている行き方自体を、疑問視させる。

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