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舘野仁美さんに聞くスタジオジブリの現場(下)

「カフェでアニメーションに恩返しをしたい」

叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京造形大学・東京工学院講師

動画の厳しさと適性を見極める大切さ

――そもそも動きのキィとなるポーズを描く「原画」の間(「中割」という)を描くのが「動画」という職種の本分ですが、日本では「動画」という職種の仕事内容がスタジオごと・作品ごとに違っていて、規定することが難しいですよね。アメリカでは「中割(inbetweeners)」と「清書(Clean-up Artists)」は別の職種ですが、日本では「動画」が兼任しています。

舘野仁美 そうですね。動きの中割と清書、さらにカットによっては第二原画(ラフ原画の清書)や原画自体の描き直しもあります。

『ハウルの動く城』動画作業中の舘野仁美さん(2004年6月、スタジオジブリにて『ハウルの動く城』動画作業中の舘野仁美さん=2004年6月、スタジオジブリにて
 原画のポーズはサラリと描いてあっても、動画は大変難しいというカットもあります。

 上手な原画の方は下手な動画が入るのを嫌って、「中1枚」(原画間の動画が1枚ずつしか入らないこと)で原画を描いたり、「全原画」(動画ナシで全て原画で描いてしまうこと)にしてしまったりする人もいます。

 その一方で、原画の「中参考」(原画が動画の参考用に描くラフな中割画)が全く使い物にならないケースもあります。

 その通りに描くと動きが繋がらないことが分かって、動画で全て描き直すということもあるんです。動画の役割は幅広くて本当は難しいんです。

――動画の職分を越える仕事、実質的には原画もこなすことが問われる場合もあると。

舘野 たとえば、今流行の動きは、途中でわざと引っかかるような設計なんですね。フリーの方や他のスタジオから見えた原画の方から、時々そうした「中参考」付の原画が回って来ます。

 けれども、それをそのまま描いてしまうと、ジブリでは「基礎が全く出来ていない」と判断されて(動画が)叱られてしまいますし、他のカットの動きと全く合いませんから、結局丸直しにするしかないんです。

 そういう場合には、原画の方と相談して直してもらったり、こちらで直したり、ケースバイケースです。

 他のスタジオでは、引っかかりがある動画がカッコイイ・面白いという演出さんもいるでしょうから、作品ごとに考えるべき問題だと思います。

 しかし、ジブリ作品の統一性を守るには、直すしかないんです。それでも、動画の要望を聞き入れてくれない原画の方もいますから、相談にはとても気を使います。

――「動画は原画になるための通過職」「原画は動画の上位職」といった考えも根強いと聞きます。

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